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日々の妄想を書き綴る
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「思えばろくな人生じゃなかった」

ルークの手を握りながらアッシュは言う。
そんな彼をルークは辛そうに見つめるが、視線に気が付いたアッシュがお前の所為では無いと安心させるように微笑んだ。

「言い方が悪かったな。お前に出逢えた以外、ろくでもなかった。お前に出逢えた事が、生きてきた中で一番の幸福だった」

そう言って笑う自分と同じ顔の青年に、ルークは表情を緩めて同意を示した。

「俺もだよ。アッシュに出逢えて良かった。辛い事もあったけど、楽しい事もあった。俺の一生が、箱庭みたいな場所で終わらずに済んで良かった」

真っ直ぐな目でアッシュに語り掛けるのを邪魔しないように、頷いて先を促す。
ルークは少し早口になりながら、必死に言葉を紡いだ。

「だって、彼処から出られなかったら、アッシュには出逢えなかった。だからティアにも、俺を生み出したヴァン師匠にも感謝してるんだ。他のみんなにだって」
「ああ」

優しく肯定すると、息を詰まらせながら、でもね、とルークは言う。

「でも、それでも、辛かったなぁ」
「………」
「感謝してた。これは本当。俺の本心。でもそれ以上に怖かった。いつまた見捨てられてしまうのか、考えたら苦しくて、息が出来なかった。死んでくださいって言われた時、悲しかったけど、俺が死んで済むならって思った。なのに死なないでくれって言われて吃驚した。訳が分からなくて、どうして良いのか分からなくて、」

どれがみんなの望む"聖なる焔"か分からなくて、

「俺、ちゃんと出来たよな?罪も、少しだけでも償えたかな?」
「ああ、出来たさ。お前は良くやった」

穏やかなエメラルドの瞳が、水の幕が張られた翡翠の瞳を見つめる。
幾ら外見が青年のそれでも、精神はたったの七つの子供なのだ。
七歳の子供が世界の為にと奔走した。
いや、奔走させてしまった。
本来ならば自分が背負うべきものだったのに。
だが、今更何を言ったところで所詮は過ぎてしまったことにすぎない。
原因を突き詰めてしまえば行き着く答えは人間が存在している所為だ、と言った人物を思い出してアッシュは思わず笑った。

「アッシュ?」
「いや、アイツの事を思い出しただけだ」

あの頃の自分の、唯一の理解者だった女性。
嘗て同じ宿命を背負った哀しい人。
自分の、自分達の幸せを思って泣いてくれた唯一の人。
彼女は最後、死ぬなとも生きろとも言わなかった。
唯、幸せになってくれと笑いながら泣いていた。
"俺達"の幸せを願ってくれた。

「アイツはいつだって見守っていてくれた」

幾ら自分が間違いを犯しても、彼女は黙って傍に居てくれた。
ルークの"中"がどれ程傷付いているのかを知って自分の言動の愚かさを嫌悪した時も、慰めるわけでも責めるわけでも無く、唯安堵したような顔をして気付けて良かったと笑っていた。
彼女は自分を無駄に養護しない代わりに責める事も無い。
一見冷めているようにも感じられるが、世界中が自分の敵になったらどんな事をしてだって守ってやると言ってくれた。

だから安心して前へと進め。
本当に間違えてしまいそうな時は、ちゃんと教えてやるから。

「子供でいられなかった俺を、唯の子供として見てくれた」

それがどれ程自分を救ってくれたかなんて彼女は知らないのだろう。

「俺はきっと、アイツの事が好きだったんだと思う」

母として、姉として、友として、一人の人間として。
彼女は闇の中に居た自分を励ましてくれていた。

「………アイツに出逢えた事も、幸福の内の一つに入るのだろうな」
「……やっぱりそっくりだ」
「?」
「ヴェスペルも、そういう人だったんだ。ヴェスはアクゼリュスの時もミュウと一緒に俺を待っていてくれた。俺だけの所為じゃないって、俺を一人にしてしまった自分にも非があるって謝ってた。何かを間違った時も、俺と一緒に考えてくれた」

間違えるのは誰しも当たり前だと言って、同じ間違いを繰り返さないのが大切なんだと教えてくれた。

「きっとヴェスも、俺の事七歳の子供として見ていてくれたんだ」

卑下するわけでも無く、見下すわけでも無く、七歳であることが当たり前のように接してくれた。
唯一旅の仲間の中で背伸びすること無く、気を抜いて一緒に居ることが出来た人だった。

「ヴェスは、サラが居なくなって寂しいって言ってた」
「…………」
「漸くサラとの記憶を取り戻せたのに、サラは消えてしまった。独りは寂しいって、哀しそうに笑いながら言っていた」

やっと一緒に居られると思ったのに消えてしまった。
それでも、彼女が還ってくるのを待つと言っていた。

「俺正直、ヴェスが羨ましかった。サラが初めて俺達に顔を曝した時、ヴェスがサラとの記憶が抜け落ちているのが分かったんだ。でもサラは笑って思い出さなくても良いって言っていた」

思い出さなくても良いよ。
君にまた逢えただけで、それだけで私は報われた。
だからまた、初めましてから始めよう。

「その時気付いたんだ。俺きっと屋敷に居た頃、ナタリアや屋敷のみんなにそう言って貰いたかったんだって」
「ルーク、」
「今更だけどさ、そう思ったんだ」

生まれてきてくれて、また私と出逢ってくれてありがとう。

「生きているだけで良いって言ったサラの顔は凄く優しかったんだ」

まるで大切な宝物を見るように。

「アイツは昔から強かった。強く在ろうとしていた。それに、憧れた」

アッシュはルークの頭を慰めるように撫でながら、薄く笑う。
思えば昔から、彼女は自分の常識の斜め上を走っていた気がする。
出会った日も片手で軽く投げられた。
その後だって手合わせで勝ったことは一度も無かった。
アリエッタの"お友達"とも最初から何事も無く接し、シンクの卑屈な部分に全力でぶつかっていった。
他の六神将とだって、あのヴァンとだって彼女は分け隔て無く過ごしていた。

「アイツは他の音素集合体やローレライだって脅して絆して従わせるような無茶苦茶な女だぞ。そんなサラが幸せになれと言ったんだ」

これで幸せにならなかったら後が怖いぞ。

「……うん、そうだね。ヴェスもそれを願ってくれていた」

誰の為でも無い、俺達の幸せを。

「帰ろう、アッシュ。あの世界に」
「ああ、帰ろうルーク」









今度こそ二人で二人だけの幸せを












うちのオリキャラは自分のオリジナル小説(まだ書いていませんが)からです
なので少しわけが分からない所もあるかもしれませんが、
サラはお母さん気質というか気に入ったら放っておけないタイプで
ヴェスは何に対しても優しい子ですが人間嫌いです
後々詳細を書こうと思います

その内シンアリ逆行か、アッシュとサラ逆行をにょたルクでやりたい
アビス未プレイだけどやってみたいと思っています

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雨に濡れた髪が頬に張り付いて不快だった。
全身を叩く雨粒は痛いほど冷たく、着ている服は湿って重い。
冷え切った身体は背中だけ焼けるように熱い。
胴に回された腕は離される気配が無く、寒い所為か、震えていた。
腕の主は後ろから自分を放すまいと抱き締めて、肩に顔を埋めて泣いている。
微かに聞こえる謝罪の言葉にアッシュは言いようの無い苛立ちを感じたが、身体はそれに反してピクリとも動かなかった。

何でお前が泣くのか。
お前は何も悪くないのに。

身体が凍えて思考すらうまく働かない。
苛立つ感情さえ寒さで鎮まってしまった。
吐き出した息が白いとどこか遠くで考えながら彼は自分を逃がそうとしない腕に触れる。
寒さに震える剥き出しの腕は青白く見え、酷く痛々しく視界に入り込んだ。
ゆるりと腕を撫でれば力が抜け、肩に埋めていた顔を上げる。
恐らく自分よりも明るい翠の瞳は不安で揺れてるのだろう。
理由は分からないが彼が、ルークが不安がっているのがアッシュには感じられた。
大体、急に後ろから抱きついてくる時点で様子がおかしいのは明白だ。
こんなにも精神が不安定になっているのに彼の仲間はそれに気付かなかったのかと不審に思う。

くるりと身体を反転し、ルークと向き合えば、やはり翠の瞳は心許無さそうに揺れていた。
まるで迷子の目だと思いながらその身体を今度は自分から抱き締めた。
力が入り強張る肢体が何故か哀しく感じられて、彼はあやすようにその背を撫でる。
合わさった鼓動が心地良くてアッシュは瞳を閉じた。

雨はまだ降り続き、二人を強く叩く。
だが、聞こえる音が互いの吐息だけだったから、地を叩く雨音はさほど気にならなかった。
背へと回された腕が縋る様に自分と同じ大きさの背を抱き返す。

「あっしゅ、」
「……」
「アッシュ、あっしゅ、さびしい」

たどたどしい口調で紡がれた言葉に、ルークを抱く腕に更に力を込めた。
隙間が無くなる程抱き締めても寂しさは埋まらない。
口には出さなくても心がそう泣いている。

「さびしい、さびしいよぉ」


ああ、そうだな。
おれもさびしいよ。


声には出さずにそう思えば、慰めるように背を撫でられる。
自分達の間には言葉は要らないのかもしれないとアッシュはどこか嬉しく思った。
言葉よりも確実な想いを共有出来るなら、それはそれで良いのだろう。
それでもルークは自分の想いを言の葉に乗せる。
彼の声はシルフを震わせて自分の耳に届くのだ。
鼓膜を震わせるその音はこの世のどんな音よりも美しいと感じる。

「さびしい、こわい、あっしゅ、ひとりは、いやだ」
「独りじゃない、俺が居る」
「うそ、うそ、あっしゅはいつもさきにいく」

駄々を捏ねる様に首を振る反動で朱色の髪から水滴が散る。
落ち着かせるように再度背中を撫でて、彼は極力穏やかな声音で話し出した。

「ルーク、俺達はいつも繋がっている。お前もそれは感じているだろう?」
「わかる、けどっ!」
「なら、俺と一緒に来るか?」

抱き締めた身体が大袈裟に震える。
それに苦笑してアッシュは一旦身体を離した。
困惑した様子のルークに彼は表情を緩める。

「もう、我慢しなくても良い。俺も、もう我慢したくない」
「あっしゅ、」
「前言撤回だ。繋がっていると言っても、やはりこうしている方が良い」

目の前に、手を伸ばせばいつでも触れられる距離に居たい。

「おれも、いたいいっしょに」

だって元々は"一つ"だったんだから。
本当はいつだって傍に居たかった。
ずっとずっと、傍に帰りたかった。

「もうはなれない、はなれたくないよ」
「ああ、ずっと一緒だ」









ずっと一緒
死ぬまで一緒
死んでも一緒 雨って切なくなりますよね この二人には出逢ったとき同様 雨が似合うと思うのです イメージ的にはレムの塔後

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優しく暖かい魂だった。
その魂自体が日溜りの様で、いつだって心に巣食う孤独を癒してくれていた。

不思議だった。
最初は憎んでいた筈なのに。
殺してやろうと思っていたのに。

その憎しみが自分を保つ為のものだったと気付いたのはいつだったろう。
その殺意が言いようの無い悲しみに似た感情に変わったのはいつだったろう。
その存在を見る度に苦しくなった。
どうしてあんなにも綺麗でいられるのかと疑問に思った。

そんな彼が夢にまで見てしまう程に心に深い傷を負っていたのに気付いたのは、
魘されて眠らない夜もしばしばあったと知ったのはいつだったろう。

優しくも哀しい魂。
癒えぬ傷を負った心をひた隠しにして贖罪の為に走り続けた幼い存在。

その強さが羨ましかった。
その優しさに焦がれていた。
その哀しさが愛しかった。

傷付けて、傷付けて、傷付けて。
いつの間にか愛していた。

独りだった自分を孤独から救ってくれた半身。
彼の存在が抱えた罪は本来ならば自分が背負う筈だったもの。
だから分けた。
独りで抱えることが無いように。
これ以上、彼の優しい魂が壊れてしまわない様に。

「ルー、ク……」

白い扉の向こうへと駆けて行った己の半身。
腹部に突き刺さる剣と、白い床に広がる赤が告げるのは己の最期。
最後に見た泣きそうな顔が脳裏に焼き付いて離れない。

「ルー…、ク……」

交わした約束はどうやら守れそうに無い。
きっと彼は怒るだろう。
いや、泣くだろうか。
それだけは嫌だ。

笑っている方が似合っている。
日溜りの中こそ彼に相応しい場所だろう。
嗚呼、でも自分は、あれ程焦がれていた日溜りよりも、

「るー、く」

彼の傍に、居たかった。
それだけが望みだった。
だからこそ、自分は"アッシュ"のままで良かった。

「すま、ない……」

奪い返そうと思っていた。
殺してやろうと思っていた。
だけど、今は。
一つになりたくない。
二つのままで居たい。
独りになりたくない。
二人で居たい。

そう、今更一つに戻れる筈が無いのだ。
自分はあの体温を知ってしまった。
同じ様で全く違う存在を愛してしまった。
その時点で、元に戻れる筈が無いのだ。

「ルーク」

嗚呼、身体から血液が抜けてどんどん冷たくなっていく。
背を走る悪寒が自分の時間があと少しだと告げる。

「後は……、任せた……」

全て託して逝くのは忍びないけど。
それでも自分は常に傍に居るから。
忘れないでほしい。
独りではないことを。
悲しまないでほしい。
自分は彼の中に居るのだから。

「愛し、てる………」

本当の意味で生きたのはこの七年間かもしれない。
そして充実したのは彼と共に居られた時間だった。
共に帰るという約束は守れなかったけど、
共に居るという約束は守るから。

「だから…、泣くなよ……」

記憶の中に残る愛しい人の笑顔に、己の一生が幸せだったと心から思った。









『ただいま、アッシュ』

俺の唯一の居場所








私はアッシュにルークの名前を呼ばせたいようです
赤毛は二人とも辛かった分、二人で幸せになってほしいですね

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嫌だ、と思った。
彼が彼女と話してるのを見る時にいつも胸がぎゅうっと苦しくなった。
苦しくて苦しくて、泣きたくなった。
自分には見せてくれない表情を彼女は知っていることに酷く傷付いた。
そうして気付いたのは、自分は彼女に嫉妬しているという事。
それを認めた時、浅ましい自分が嫌で暫くの間自己嫌悪に陥った。


それも、もう……今では遠い思い出だけど――。


「アッシュ」

どうして自分の腕に抱かれている彼はこんなにも冷たいのだろう。

「アッシュ」

どうして彼は何も言ってくれないのだろう。

「アッシュ」

どうして彼は動かないのだろう。

「あ、っしゅ……」

嬉しい筈なのに、漸く全て終わった筈なのに、心に広がるのは悲しみばかりで。
真っ青な空があってもその下に貴方が居ないなら意味が無いのに。

……二人で居られないなら、意味が無いのに――。

「ごめん、ティア……」

帰るって、約束したけど……、

「アッシュを独り残して、帰ることは……出来ないや」

彼の記憶が今自分の中にある。
彼は大爆発を誤解していたようだけれど、でも結果は一緒。
二人で居られないのなら、意味が無いのだから。

「約束したからね」

一緒に、帰るって。

「言っていたよね」

独りになるのはもう嫌だと。
あの日、エルドラントへ行く前日。
彼は起こりうる大爆発を危惧して言っていたのかも知れないけど。

「同じ気持ちだったよ」

独りになるのは嫌だよね。
冷たくて、怖くて、無性に泣き叫びたくなるんだ。
せっかく半身に逢えたのに、どちらかが消えてしまうなんて辛いよね。

「独りぼっちは、嫌だよね……」

あの箱庭のような場所で生きてきた自分も、アッシュが生きてきたダアトでの辛い日々の中でも。
独りだった、ずっと。
自分にはガイが居たけど、アッシュにはナタリアとの約束という支えがあったけど。
いつもいつも、誰かって名前も知らない誰かを求めてた。

「きっとそれはアッシュだったんだ」

求めていたんだ。
無意識の中で。
アッシュという片割れを。
知っていたんだ。
彼という存在を。
今なら彼に惹かれた理由が、よく解る。

「大好きだよ、アッシュ……」

最後に交えた剣からは底知れない愛しさが伝わってきた。
最後に見た顔は何故か満足そうに微笑んでいた。
彼は、本当に最期の最期まで自分を想ってくれていた。

「ずっとずっと、一緒だからね」

嗚呼、人を想う事はこんなにも苦しくて、こんなにも心が温かくなる。
彼が自分と同じ気持ちだと知った時、泣きたくなる程嬉しくて、満たされた。
罪で汚れた自分がこんなにも幸せで良いんだろうかと怖くなった。
だけど彼は、全部半分こにしてくれた。
罪も悲しみも全て一緒に背負う代わりに、一緒に幸せになろうって言ってくれた。

「嬉しかったんだ、本当に」

自分達が解放したあの青空の下では一緒で居られないのなら、音譜帯で音素となって一緒に居たい。
彼が隣に居ないのなら美しい青空も色褪せて見えてしまうだろうから。

まだ彼は此処に居てくれているのかな?
それとも先に音譜帯へと逝ってしまったかな?
消えることはもう怖くは無い。
その先に彼が居てくれるのなら。

「アッシュ、」

腕に抱いた躯に最期のキスをして、まどろむように意識を手放した。









『おかえり……。よく頑張ったな、ルーク』

それはいつだって貴方の傍













この後ルークはアッシュに飛びついて大泣きしながら文句言えばいいよ
何で先に逝ったんだよ!!ってな具合に
アッシュは謝り倒せばいい
二人して泣けばいい
この二人の幸せはお互いの傍だと思うんですよ、本当に

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頭の中で何かが弾けた気がした。
それは断続的に鈍痛を与え、アッシュは塀に手を付き、空いた方の掌をこめかみに当てる。
子供の泣き叫ぶ声が頭の中で響いていた。
狂った様に謝り続ける声の主は自分のレプリカ。

朱色の髪と、翡翠色の瞳の……少女。

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!』

「………屑が、何をそんなに謝る」

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!……………アッ、シュ………』

「っ!?」

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、アッシュ……、アッシュ!!!』

「レプ、リカ………?」

痛みを堪えて足を踏み出す。
向かう先は彼女の下。
普段なら呼ばれても頼まれても、自分から彼女の元へ向かうことは無い。
だが、この時だけは行かなければいけない気がした。
行かなければ取り返しが付かなくなると何かが頭の中で警告したから。






宿屋のフロントで鍵を借り、彼女が居る部屋へと向かう。
兄妹だと言えば宿の主は快く渡してくれた。
一人部屋だと聞いたから彼女の仲間と鉢合わせする事はまず無いだろう。
少々忍びないと思いつつも部屋の扉を開ければ、当たり前だが中は暗かった。
後ろ手に鍵を閉め、注意していなければ聞き逃してしまいそうなぐらい小さな声ですすり泣く少女の下へ向かう。
ベッドサイドの明かりを付け、苦悶の表情を浮かべながら眠る少女の髪を気紛れに梳く。
だが、頭の中の叫びは未だに消えない。
己に向けて謝罪を繰り返す謝罪を繰り返す少女を呼ぶが、届かない。
次第に声は拒絶するように大きくなる。

ごめんなさい

ごめんなさい

アッシュ

ごめんなさい

俺が

俺が、



『生まれてこなければ――!!』



「ルークッ!!」

肩を掴み強く揺さぶれば驚いたような翡翠がぼんやりとアッシュを移す。
最初は寝惚けた顔で彼を見つめるルークの表情が徐々に恐怖に染まり、呼吸が速くなっていく。
無駄に怖がらせないようにと静かにベッドに腰を掛け、あやす様にゆっくりと朱色の髪を梳いた。
一度、二度。
荒くなった呼吸が治まるまで。
そのリズムに合わせて深呼吸を繰り返すルークは、普段とは違う様子のアッシュに戸惑いながらも嬉しいと感じていた。
優しい手付きが嬉しくて悲しくて、見せまいと決めていた涙が頬を伝う。

「おい、」
「っ、あっ…しゅ、」
「………レプリカ?」
「ふ、ぅ、っく……」

痛い、痛い。

胸元に手を当てる。
心が痛かった。
いつからこんな風になったのだろう。
アッシュが傍に居るだけで苦しかった。
偶に情報交換としてアッシュと話す時間が楽しかった。
建前も理由も要らずアッシュと話すことが出来るナタリアが羨ましかった。
自分はアッシュのレプリカで、彼に恨まれるのは当たり前のこと。
それどころかアクゼリュスの罪人である自分が彼を想うなど赦されないのに。

赦される筈が、無いのに。

「ごめん、なさい…ごめんなさい」

なのに自分は彼が好きだ。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

幸せになる資格なんて無いのに。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」

生まれてきてはいけなかったのに―――!!


「………レプリカ」
「ごめ、なさい……」
「………」
「もう、平気だから。俺また、変な夢見てアッシュに迷惑掛けたんだろ?わざわざ来てくれて、ありがとう」

大丈夫大丈夫大丈夫。
明日からまた笑えるから。
みんなとも、ちゃんと笑えるから。

「だから、もう大丈「何が平気だ、何が大丈夫だ」

細い腕を引き上体を起こさせる。
翡翠の瞳を丸く見開く少女は、何故か苦しそうな表情をした青年に首を傾げた。
翡翠とエメラルドが交差し、先に視線を逸らしたのはアッシュ。
未だに彼の意図が掴めないルークはジッとアッシュを見つめていた。

「何故、独りで傷付く?お前の仲間には「駄目なんだよ。俺は罪を犯したから。俺は生きている限り償わないと。俺は俺の生を以て、世界を幸せにしなきゃいけないんだ。だから俺は笑っていなきゃいけないんだ。そうすればみんな安心してくれる。俺には弱音を吐く資格なんて無いから。迷惑を掛けたら見限られてしまうから。だってそうでしょ、アッシュ?俺が生まれなければアッシュは名前を奪われることなくずっと日溜まりに居れたんだから。俺が居たから、アッシュは家に帰れなくなったんだから」

あくまで淡々と喋るルークにアッシュは戦慄する。
彼女は壊れてしまっている。
もう随分と前にアクゼリュスで。
見限られて見放されて、7歳だったルークは殺されてしまった。
他でもない自分達によって。
いや、彼女を此処まで壊してしまったのは、

「そこまでお前を追い詰めてしまったのは、俺か………」
「違う、違うよ!アッシュは、アッシュだけは、俺を見捨てないでいてくれた。俺に外を見せてくれた。アッシュが居たから、アッシュが居なかったら、俺は前に進めなかった。だから俺はアッシュに感謝してる」

しきりに首を振り、言い聞かせるように彼の肩を掴んだ手が震え、それを認めたアッシュはやんわりとその手を外させた。
よく見ると翡翠の瞳には水の幕が張り、今にも雫が零れ落ちそうだった。
その表情を見ていることが出来なくて、半ば衝動的に細い肢体を掻き抱く。

「アッシュ!?」

同じ筈なのに、同じ存在で生まれてきた筈なのに、腕の中に居る存在は自分とはまったく異なる存在だった。
今更、気付いた。
いや、今まで気付きたく無かっただけなのかもしれない。
アクゼリュスで見た時よりも確実に痩せ、細くなった肩に顔を埋める。

「………、アッシュ?」
「聞け、ルーク」

あまり呼ばない名前を口にすれば、大袈裟に肩が跳ねた。
慰めるように背を叩き、アッシュは言葉を続ける。

「俺はお前を憎んでいた。だが、それ以上に困惑していた。アクゼリュスでの事も、あれは唯の八つ当たりだ。本来なら俺の罪だった筈なのに」
「ち、違う!あれは、」
「あぁ、確かに馬鹿正直にヴァンについて行ったお前にも問題があった。だが、あの時はお前にとってヴァンは唯一の存在だったんだろう?…………俺も同じだった」

父の愛情に焦がれていた。
自分という存在を認めてもらいたかった。

「"俺"を見てほしかった。"聖なる焔"では無く、"俺自身"を」

例え仮初めでも、それを唯一与えてくれたのはヴァンだった。
その点では、自分も彼女も同じだろう。

「そんな俺が、お前を責められる訳がなかったんだ。なのに俺はお前を詰り、責めた。責められるべき存在は俺だったのに」
「違う、違うよ……。アッシュは悪くない。アッシュは被害者じゃないか。俺は無知で、出来損ないで、アクゼリュスを落としたんだ。アッシュは必死に止めようとしてくれていたのに」

頼りない力で自分の服を掴むルークをアッシュは更に力を込めて抱き締める。

これは懺悔だ。
自分が楽になりたいが為の自己満足だ。

それでも言葉を止める事は出来ない。

「ならば、俺もその罪を背負う」
「なん、」
「"聖なる焔"が背負うべき罪なら俺も同罪だ。背負わせろ、ルーク。もう、お前だけが抱える必要は無い」

そう言えば、恐々と背に回される腕に言いようの無い安堵が胸の内を締めた。
微かに聞こえる嗚咽が、震える身体が痛ましくて、アッシュは彼女を慈しむように背を撫でる。

最初は憎んでいた。
次第に疑問が浮かんだ。
箱庭で育てられた無知な少女が哀れで仕方がなかった。
そうは思っても中々感情と思考が一致してくれず、責め、傷付けた。
だが、見栄も建て前も言い訳も全て取り去れば残るのは焦がれるような愛しさだけで。
直向きに、傷付きながらも進むルークにいつの間にか惹かれていた。
認めるしかないじゃないか。
自分は彼女が愛おしくて、彼女を愛したくて仕方がないんだ。

「ルーク、」

この世に一人しか居ない自分の半身。

「ルーク、」

独りだった自分が求めていた存在。

「好きだ、ルーク」
「ぇ?」
「好きなんだ、お前のことが」

早鐘を打つ鼓動に心の中で自嘲する。
これ程までに緊張することは今まで生きてきてそう無かった。
ルークは信じられないとでも言うように首を振る。
徐に開いた口から出た声は震えていた。

「駄目、だよ。だっ、て……俺、レプリカで、罪人で……ナタリアが、居るから……アッシュのこと、好きになっちゃ、いけなくて……」
「っ、」
「ナタリアは、ずっとずっと、アッシュを待っていて、だから俺は、」
「ルーク?」
「俺が、幾らアッシュを好きでも、隠さなきゃ、いけないって………、でも………俺、は……」

アッシュを好きでいても、いいの?

「アッシュ、俺、俺っ、」
「好きだ、ルーク、お前だけが」
「っ、俺も、好き。好きだよ、アッシュ!」

気付いたら、これ程までに焦がれていた。
気付いたら、これ程までに愛していた。

心が歓喜で震える。
抱き合えるのは別の個体だから。
今なら辛かった日々にも感謝できる。
独りぼっちだった自分達が漸く独りではなくなったのだから。

「俺の前では我慢するな。泣きたいなら泣いて良い。寂しかったら、辛かったら俺を呼べ」
「うん、うん!」
「全て終わったら、」

何にも縛られること無く、二人で生きていこう。

誓うように口付ければ涙でしょっぱくて、何故だかそれが嬉しくて、幸せで、二人は額を合わせて笑った。









永遠に離れる事無く
ずっと二人で
















アッシュもルークもお互いに依存しているような気がしてきた今日この頃
まぁ、二人が幸せなら何でもいいかな、と開き直ってみる

ルークは泣かせたくなります
アッシュは甘やかしてあげたくなります
最終的には二人纏めて愛してあげたくなります

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