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日々の妄想を書き綴る
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もう良いよ。
もう良いから。
だからそんな顔、しないでよ。

知ってるんだ。
ううん、本当は知りたくなかったのかも。
だってあのアッシュが、あのルークの前であんなに穏やかな顔をしてたんだから。

最初は信じられなかった。
口を開けば屑だの劣化野郎だの言っていたアッシュがルークに対して優しそうな顔で笑っていた。
きっと誰も知らないし、見たことが無い表情だって直ぐに分かった。

ガイはアッシュの事をあまり良く思っていないみたいだし、ナタリアはアッシュの事好きでも、アッシュの中までは踏み込めていない。

分かるよ。
私はアッシュの事、全然知らないけど。
アッシュにとって、ルークがアッシュを想うのと同じ位、ルークの事が大事だってことは。

アッシュを知らなくても、ルークに本当の意味で赦されていなくても、そんな私でも分かったの。
きっと二人ともずっと寂しかったんだって。
ずっとずっと、お互いを探していたんだって。

アッシュがいつも背を向けて私達から離れる時、ルークが一番辛そうだった。
なのに私達の前では悟られないように必死になって明るく振る舞って。

そんなルークを見る度に悲しくなるよ。
信頼されていないんだって。
でもそれは仕方がない事なんだよね。
だって、私達が最初に彼を裏切ったんだから。

でもアッシュは憎んでいた筈なのに最初からルークを気にしてた。
こういうところはホントに同じ。
二人共馬鹿みたいにお人好しなんだ。
………ホント、馬鹿。

あの時、穏やかな二人を見つけたのは偶々だった。
消耗品を買い込んで、宿に戻るその帰り。
ねぇ、ルーク。
その時のアンタの顔、こっちが泣いてしまう位、優しかったんだよ。

アンタのそんな綺麗で嬉しそうな顔見たことなくて。
私、今までアンタの何を見てきたんだろうって恥ずかしくなった。

アッシュはずっと本当のルークを見ていてくれたんだね。
ルークを見る度に自分の罪を突き付けられている気がして、私はルークと面と向かって向き合う事は出来なかった。

だからきっと、ティアやガイにさえ向けない顔を、アッシュには見せたんだね。
アッシュも、ルークと同じなのかな?

私が言うのも何だけど、出会った頃のアッシュは駄々を言う子供の様にルークに当たり散らしてた。
それを非道いと皆は言うし、私も思ったけど、違ったんだね。
アッシュもルークと同じ、子供で居られなかった人だったんだ。

我が儘を言えない、不満も言えない人生なんて、我慢ばかりの人生なんて、私には想像も付かない。
アッシュはそんな世界で生きてきたの?

私はね、アンタの事を一番解ってくれるのはアッシュだって思ってる。
同じ様に、アッシュを一番解るのは、きっとアンタ。

知ってるよ。
いつの間にかアンタ達の居場所は、お互いの傍になっていたこと。
私達の傍でも無くて、ナタリアの傍でも無い、アンタ達だけの日溜まり。

ねぇ、ルーク。
もし私達がアンタの悲しみや辛さに気が付いていたなら、アンタの居場所になれたかな?
アンタの還ってくる日溜まりになれたかな?

今更気付いたって遅いって解ってる。
だからもう、アンタの優しさに甘えるような真似はしない。
私達の傍に居てなんて言わないから。
だから、その代わりに言うよ。


「行って良いよ」

帰って良いよ。

「アッシュが、待ってるんでしょ?」


還ってくるのは独りだって大佐は言ってた。
本当なら被験者だって事も。

でもアッシュのお陰かな?
再び此処に還ってきたのは私達と約束したルークだった。
私達の仲間だったルーク。
優しいルーク。

私達はアンタの優しさに甘えてしまったんだね。
だからもう解放してあげなくちゃ。
孤独な魂が寂しいって泣いてる事位、私にだって判るようになったんだよ。


「ありがとう、二人共」

私達の我が儘に付き合ってくれて。

「ありがとう、ルーク」

アンタの優しさが羨ましかった。
その優しさに私は救われた。

「ありがとう、アッシュ」

ルークを最期の最期まで守ってくれて。
ルークともう一度会わせてくれて。

「ありがとうっ、」

二人と出逢えて良かった。

「だから…、もう良いよ」

もう我慢しなくて良いよ。
もっと我が儘言ったって良いんだよ。
ずっとずっと辛い思いしてきたんだから。

「もう、良いんだよっ!!」

ありがとう。
約束守ってくれてありがとう。
この世界を、アンタ達にとって辛かっただけかもしれない世界を。
薄情な世界を、守ってくれてありがとう。

だから、ねぇ。
もう行って良いよ。
帰っても良いよ。
アンタはアンタの幸せを優先してよ。

「アニス……」

ルークが困惑した様に私を見る。
後ろではティアやナタリアが何かを叫んでいるけど、私には届かなかった。
何も言わないから、ガイや大佐は解ってくれてるのかな。

「ありがとう、アニス」

ううん、私の方がありがとうだよ。
本当は感謝も謝罪も伝え切れていない。
でもそれって、私だけの後悔でしょ。
ルークを巻き込むなんてお門違いだよね。
だから、だからね、

「私の方こそ、ありがとう」

そして、今までごめんなさい。

「……バイバイ」

バイバイ、さようなら。
もう二度と逢う事は無いかもしれないけど。
それでも私は、ルーク達の幸せを願うよ。

最期に笑ってくれたルークの顔は、あの時見つけた表情と同じで、私は無性に泣きたくなった。
でも、これは悲しいからじゃない。
きっと、嬉しいから。
だって、その笑みを見せてくれたから。

ルークの身体が淡い焔の色を帯びる。
少しずつ形が崩れていくルークを見て、ティアが短い悲鳴を上げたけど、ルークの身体は更に焔の様に揺らめいた。

「もう、良いんだよな……」
「ええ、もう十分ですよ」

大佐が穏やかな顔でルークに微笑む。
まるで親が子を見る様な表情だと思った。

「今度こそ、幸せに」

私の隣まで来たガイは震える声でルークに言う。
その言葉を聞いてルークは嬉しそうに笑った。

アンタは私達の日溜りだったよ。
アンタ達が居たから私達は皆、此処に居ることが出来たんだよ。

「ティア、ナタリア……ごめん」

だけど、とルークは暗い空を優しい眼差しで見上げた。
嗚呼、あそこにアッシュが居るんだね。
だったら尚更、早く帰ったほうが良いよ、ルーク。
だってアイツ、かなり短気でしょ?

ティアは狂った様にルークの名前を呼んで、行かないでと泣いている。
ナタリアは何かを耐える様に俯いていた。

「ありがとう、皆」

ふわり、

焔が天に昇る。
ルークの髪と同じ色の焔。
優しくて暖かい色。

ありがとう、ルーク。
アンタは私達の光だったよ。









彼等が今度こそ幸せになる為に












何か、ティアとナタリア全く喋ってませんが……
ティアはルークをガイや大佐やアニスのように見送れるとは毛頭思いません
厳しめじゃ無いけど、人間って自分を優先するのが普通じゃないですか

でもそれが人間だからこそ、他人の事を思える人間が美しいと思うんですよね
いや、未プレイの奴がこんなこと言うのは甚だしいですけど、
ティアに他人を優先させることが出来るのか?とシナリオブックを読んで思ったわけです←

ナタリアの事は、正直理解不能なんですね、私
彼女の考えてることとか、神経とかさっぱり理解できない
偽姫云々の前に、王族としての職務はどうしたんだよって感じでした
要は無責任で気に食わなかったんです、ごめんなさい

聞く能力では秀でているのはジェイドだと個人的に思います
ガイは二、三発ぶん殴れば和解できるかな、と←
アニスには希望を託してみました。
あの中でルークの次に幼くてまだまだ良い方に成長できるかな、と

私がアッシュ贔屓なのは彼の生い立ちの所為でもあります
あれで普通に生きていたらやはり何発か殴りますね、私なら
だからと言ってルーク可哀想だね、可愛いね、じゃないのも私なんです
転んでも、ぶつかっても、落ちても進めってのが私のモットーです
崖に落っこちて漸く登ってきたところをまた突き落とすのが私です(特にオリキャラに対しては)←

赤毛は好きで生い立ち上、多少優遇されてる文が多いですが、基本しゃきっとせい精神です
サラやヴェスは赤毛に甘いんじゃなくて、正しい事や良く出来たことは褒め、
間違ったりしたら注意したり怒ったりっていうスタンスです

幾らアッシュがどれだけ辛かったとしてもそんなこと言うのは駄目だよ、とか
流石にそこまで卑屈になる必要は無いんじゃない?お前何がしたいの、とか
そういう二人なんです

なんかすっげー後書き長くなっちゃったんだけど、まぁ……いっか
兎に角これからも赤毛二人幸せになれるよう頑張っていきます!
ありがとうございました!!

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白い雲が青い空を漂っている。
街に着いた途端、皆買い物に走ったり、思い思い自由時間を過ごしていた。
何処かに行く予定も何も無かったルークは公園のベンチに座りながら何とも無しに空を見上げている。

「口、開いてるぞ」
「ふぇ?」

条件反射で開いていたらしい口を閉じればカチンと歯が鳴った。
ルークの斜め後ろに立っていたアッシュは、前へと回るとルークの隣に座る。
自然な動作で座った青年に、呆然と見ているだけしか出来なかった少女は内心焦る。
出会った時の第一印象は最悪だった。
良く分からないけど自分の顔と良く似た青年が恐ろしかったを覚えている。
サラとジェイドの提案で、常にでは無いが頻繁に行動を共にするようになってから、アッシュに対して抱いていた印象が少し変わっていった。
彼は基本穏やかで無口だ。
だが、元々沸点が低い彼は、偶にストレスを発散するようにシンクやサラと喧嘩している事もあるが、それ以外は落ち着いている。
そして、アッシュは自分達と一緒に居ると時折酷く悲しそうな顔をするのだ。

「………あれ、そういえばアッシュってナタリアと一緒に居なかったけ?」
「ああ、さっきまでな」
「………どうして、此処に?」
「嫌か?」

いやいや、嫌じゃないけどさっ!!!

嫌じゃないけど意味が分からない。
彼が自分と一緒に居る理由が分からない。
自分の被験者。
ナタリアが、あの屋敷の皆が、求めていた、"彼"。

「そ、そう言えばサラは!?」
「眼鏡と一緒に居た。今後の話しでもしてるんじゃないのか」
「……アリエッタは?」
「シンクとヴェスペルと一緒に近くの森に行った。どうやらお友達が近くまで来ているらしい」
「…………ギンジ、さん、は?」
「お前のところのノエルと久し振りに茶でもしてくるって一目散に駆けて行ったぞ」

ギンジは妹思いだな、とサラが船内で言っていた事を思い出す。
確かにギンジは良い奴だ。
シンク達と同じ様に、一緒に居て不思議と気が抜ける相手だった。
そして偶に仕事を依頼する漆黒の翼の三人と、今自分の横に座っている少女も。
初めはどう接して良いのか分からなかったが、アリエッタのお陰で半ば済し崩すように彼女と会話する機会が増えたのだ。
今となってはありがたい。
彼女の傍は本当に心地が良かった。

「……本当に、」

不思議だった。
彼女と居るとずっと前から知ってるような錯覚に陥ることがある。
優しい光に、ずっと護られていた様な。

「ルー、ク」
「っ!?あ、アッシュ!!?」
「……良かったのか?」

首を傾げて問うアッシュに名前を呼ばれた事でパニックに陥ったルークが半ば叫ぶ様に何が、と聞き返す。
彼はその反応にも疑問を感じつつも、彼女の問いに答えるべく口を開いた。

「男の名だろう」
「……は?」
「"ルーク"は男の名だろう?」

女であるお前がこの名の儘で良いのか、と言われ、ルークは翡翠の瞳を大きく見開くと、困惑した様に瞬きを繰り返す。
今の問い掛けは、まるで自分を気遣うようにも取れる。
アッシュの名を奪ってしまったのに、ふざけるなでも返せでも無く、その名で良いのかと聞いてきたのだ。

嗚呼、何か今日のアッシュ始末に悪いよ。

ルークは赤くなった顔を隠すように俯くと、蚊の鳴く様な声で、良いよ、と言った。

「良いのか?」
「良い、これで、ううん、これが良い」

アッシュが赦してくれるなら、と言う少女の頭をアッシュは優しく撫でる。
肩口から零れ落ちた朱色の髪はユリアシティを出る直前に切った。
最初はバッサリと切るつもりだったらしいが、アリエッタに請われ、腰まであった髪を仕方無く肩甲骨の下辺りまで切るに留めたのだ。
二人を優しく包むように吹き抜けた風が朱色と紅を揺らして、過ぎる。
空を見つめていた視線をルークに向ければ、翡翠の瞳に涙が溜まって今にも零れ落ちそうだった。
頭に置いていた手を移動させて彼女を肩に触れれば、意図を理解したルークが戸惑いながらも自分に寄りかかってくる。
小さな嗚咽を上げて泣き始めた少女にアッシュは優しく、泣くな、と笑った。

「む、りぃ…ぅええ……」

だって、だって、こんなにも嬉しいのだから。
タルタロスの中でその存在を知り、雨の中廃工場で出逢い、ユリアシティで初めて話す事が出来た自分の被験者。
ずっと何かが足りないと思っていた。
それが何なのか分からなかった。
彼に出逢って、漸くそれが何なのか理解した。
きっと、自分は、求めていたのだ。
自分のたった一人の半身を。

「あっしゅぅ」
「情けない声出すな」
「だって、だって、俺、」

アクゼリュスは自然崩壊だったと言っていたけれど、自分はあの時ヴァンに付いて行ってしまった。
瘴気を消せると聞いて、そうすればアクゼリュスを救えるのだと思い込んで。
アクゼリュスが崩落してアリエッタ達が居なかったらと考えると恐ろしくて仕方が無い。
自分は知らないことが余りにも多すぎる。

「俺、もっと、頑張るから」

『俺は笑っていないといけないんだ』

「アッシュが、アッシュに、迷惑掛けない様に」

『笑って、頑張らないと』

「頑張るからっ、」

『そうしないと、』


テラレテシマウカラ――、


「――っ、」

鋭い痛みが頭に走り、上体をぐら付かせたアッシュをルークが驚きに目を見開いて支える。
どうしたのかと焦った声で問う少女の肩を掴んで引き寄せた。


大好きだよ
ずっとずっと大好きだから

だから、

アッシュは幸せになって


思い出せない。
でも、確かに憶えている。
顔も声も何も覚えていないけど、"彼"が自分を愛してくれたのは憶えているんだ。
ちゃんと、此処に、残っている。
嗚呼、それでも、


お前が居ないのに幸せになんかなれるわけが無いんだよ


「………いい、」
「え?」
「独りで、頑張らなくても、いい」

そう、独りで頑張る必要なんて無いのだ。

「分からないことは、教えてやるから、」

だから、


おねがいだからひとりでないたりしないでください
ひとりでいったり、しないでください

おれをひとりにしないでください


自分の肩に顔を埋めたアッシュの頭をルークの手があやす様に撫でた。
安心させる様に、自分は此処に居るとでも言うように、アッシュの頭を撫でて髪を梳く。
何度も何度も、心の中で大丈夫だよと告げるながら。
きっと今は言葉に出すより、想っている方が伝わるから。
やはり自分は彼のレプリカなのだと思う。
だって、彼の痛みも悲しみも孤独も、何も言われなくてもこうして感じ取れるのだから。

「アッシュ、」


――大好き


自然と湧き上がった想いに、ルークはまた涙を流した。









心が、魂が、ずっと君を呼んでいるんだ











ふぇっふぇっふぇ、リアル多忙すぎて中々更新できなくてごめんなさい

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『アリエッタ、お前達の事、嫌い、ですっ!!』
『アッシュを殺す奴等、大っ嫌いっ!!!!』






『ルーク』がこの世に生を受けてから、私達はずっと『ルーク』を見守っていた。
傍に寄り添い、時折ルナが子守唄を歌いながら彼を見守っていた。
ある時、そう、それは彼の五つの誕生日だったか、彼の目に私達が映った。
驚いて兵を呼ぼうとしたのも今では良い思い出だ。

彼は恵まれていたけれど孤独だった。
愛らしい婚約者が居ても彼の孤独は癒せなかった。
彼はずっと前から気付いていた。
周りが求めるのは自分では無く、預言に詠まれた『ルーク・フォン・ファブレ』だと言う事を。

時折悪夢に魘され続ける小さな小さな子供に私達は何も出来ない。
彼の本当の両親よりも、彼の婚約者よりも、彼の誕生を詠んだ彼の少女よりも、私達は彼を愛しているのに、こんなにも大事に想っているのに、彼の孤独を癒す事は出来ない。

嗚呼、私達はあの子に幸せになって貰いたかっただけ。
小さな子供が孤独に泣くことすらも出来ないなんて余りにも悲しかった。
嘗て、彼の様に世界に生を受けた私達の同位体は皆人間に奪われてしまった。
己の寿命すら全う出来なかった可哀想な子達。
私達に還る事すら出来なかった悲しい子達。
私達は、彼にそんな思いをして欲しくない。

彼の焔が二つに割れて、一つが二つになった時、彼の瞳に私達が映る事は無くなった。
ダアトでの辛い日々が、私たちの存在すら忘れさせてしまった。
それが酷く悲しかったけれど、彼と同じ焔であるもう一人の小さな小さな子供が彼の理解者になってくれたらと願っていた。
『ルーク』が『アッシュ』を知って、『アッシュ』に『ルーク』を知って貰いたかった。
だって彼等はお互いに唯一無二の存在だったから。
彼は最初、自分の片割れを拒んでいたけど、次第に受け入れていってくれた。
あの子は寂しい子だったから、愛される事を知って欲しかった。

でも、






シルフの嘆きが鼓膜を震わせ、ヴェスペルは瞳を伏せる。
彼女達が嘆いているのは今日出会ったあの青年に対してだろう。
サラの話しの後、もう一度納得させるようにパッセージリングの耐用年数が限界であった為にアクゼリュスは自然崩壊だったと説明を受けた。
幸い元神託の盾の六神将三人とサラが予め彼等の避難を済ませておいてくれた為に死者は出なかった。
だがその後の問題は彼女、ルークがアッシュのレプリカであり、彼が本当の『ルーク・フォン・ファブレ』だったことだった。
理由は良く分からないがそれを知ったナタリアが嬉しそうにアッシュを見つめ、反対にガイは仇を見るような目で睨み付けていた。
ジェイドは何も言わず唯二人を見ているだけで、アニスとティアに関しては完全に蚊帳の外だった。
ナタリアが約束の話をした辺りで、今まで無表情だったアッシュの表情がほんの少しだけ苦悶に歪んだ。
それを見咎めたアリエッタが守る様に彼に抱き付き、こう叫んだ。

『アリエッタ、お前達の事、嫌い、ですっ!!』
『アッシュを独りにさせる奴等、大っ嫌いっ!!!!』

その剣幕に驚いたのは自分達だけでは無かったようで、アリエッタに抱き締められているアッシュも自分の今の状態が分からず目を丸く見開いていた。
シンクはそんなアリエッタに溜め息を吐くと二人の手を握って退出を促す。
途中ルークに声を掛けて、慌てたように付いて行った事から、恐らく共に行くことを勧められたのだろう。

「何だったんですの、急に……」
「さぁな。だけど、あの子はアッシュの事が本当に好きなんだろう」

誰も気付かなかった些細な表情さえ見逃さない程に。

「兎に角、大地降下は進めた方が良い。アクゼリュスでああなんだ。他のパッセージリングだってどうなっているか分からない」
「……そうですね。確かに貴方の言う通りでしょう」
「御理解、感謝するカーティス大佐」

丁寧に頭を下げるサラにジェイドはいいえ、と首を振る。
彼の視線はまだ自分に聞きたい事がある様だったが、それに気付かない振りをしてサラは部屋から出て行く。
それを目で追ってヴェスペルは小さく息を吐いた。






その光景にサラは思わず疲れを忘れて噴出してしまった。
ルークは相変わらず困った様にアッシュを見ているし、アッシュは酷く機嫌が悪そうに腕を組み、眉間には皺を寄せていた。
そんな二人を嬉しそうに見つめているのはアリエッタで、爆笑しているシンクは腹を抱えてベッドに横たわっていた。

「お揃い、ですっ!」

二対の色の違う赤いツインテールが目の前で揺れている。
アリエッタは昔からアッシュの髪で遊ぶのが好きだったが、まさか早速ルークまで標的にしてしまうとは侮れない子だ。
いや、ルークもアッシュもツインテール自体は似合っている。
アリエッタに前髪を下げられたアッシュは普段より幼く見える。
だが、似た顔でも性別の壁が此処まで高いとはサラも思わなかった。

「いや、二人共可愛いよ……」
「嬉しくねぇっ!!」

だろうよ。

喉の奥で笑い続けるサラはルークの視線が自分の仮面に集中していることに気付き、それに触れる。
頭の後ろで結った紐を解き、顔を曝せば翡翠の瞳が驚愕に更に大きく見開かれた。

「……ヴェス!?」
「やっぱり似てるか」
「うん、だけど、何で………?」

ルークの疑問は尤もだ。
彼等の前では話せなかったことを、この面子でなら大丈夫だろうと判断したから仮面を取ったのだから、彼女への質問にはしっかりと答えるつもりだ。

「さっき、私がノームの同位体から創られた存在だと話したよね。だけど、だからと言って私はノームの同位体では無い」

本来の同位体はあの子だ。

「私の情報を元に創られた、"本当"の同位体。何故私が先に創られたのかは割愛するけど、ヴェスはノームの同位体としてこの世に生を受けた。だけど、」

あの子は死んでしまった。

「もうずっとずっと昔の話だ。世界を救う為に世界に殺されたノームの同位体。あの子だけじゃない。他の同位体達も人知れず世界を救い、強すぎる力を恐れられて人間に、世界に殺されてしまった」

覚えている。
覚えている筈なのに。
彼等の顔と名前がどうしても出てこない。

「ルーク、ヴェスには私のこと内緒にしてな」
「え?でも、」
「あの子は確かに私が知っているヴェスだけど、あの子は私を憶えていないから」

なら今はまだ忘れたままで居て欲しい。
あんな辛い事、思い出す必要は無いんだ。

髪を二つに括っていたリボンを取り、アッシュは数回自分の髪を梳くとその手でサラの頭を殴る。
不意打ちの攻撃にもろに舌を噛んでしまい蹲る彼女をやはりシンクは笑った。
一度笑い出すと抜け出すのは大変らしい。

「情けねぇ面曝してんじゃねぇ」
「……君だけには言われたくないよ。さっきのツインテール可愛かったのに」

涙目で反撃すれば元々沸点の低い青年がサラに食って掛かる。
それを何処吹く風で流しながら、血の味のする口内に眉を顰めた。

「……いつも、ああなのか?」
「大体はね」
「……アッシュも?」
「はい、です」

キュッとルークの手を握るアリエッタは可笑しそうに微笑んだ。
シンクは上体を起こし、仮面の下からどつき漫才を繰り広げる二人を見る。

「やけに物知りだなとは前から思っていたけど、あれは全部サラが経験したことだったんだね」
「でも、サラはサラ、です」

そう、人間で無いからと言っても彼女は彼女の儘なのだ。
何者にも変えがたい自分達の家族。









「て、言うか止めなくて良いのか!?」
「殴り合いになるまで放っておいても構わないよ」










ふぁい、ここまで!!
こんな感じでにょたルクの逆行短編を普通に短編の方で載せていきます
にょたルク可愛いよう
アシュにょらルク可愛いよう!!お持ち帰りしたいぃいいいい!!

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そう、彼女は唯、






ユリアシティに着いた一同はティアの家へと移動した。
既にタルタロスの中で治療を終えたサラは先程の大怪我が嘘だったかの様な状態だった。
昔から怪我の治りが異様に早い彼女は、今回も治癒術を必要としなかったのだろう。
膝の上に座ったアリエッタの髪を櫛で整えながら、サラは口を開く。

「さて、何から話せば良いかな?」
「その前に仮面を取ってくれると嬉しいんですがねぇ」
「それは聞けないな」

喉の奥で笑う女性にジェイドも食えない笑みで応戦する。
不穏な空気にルークが焦った様に二人を見つめ、ヴェスペルは苦笑を隠せなかった。
呆れたシンクの一声で漸く収拾がついたのか、彼女は自分が何故ヴァンよりも先にセフィロトに居たのかを話し出す。

「私があのセフィロトに居たのはパッセージリングの書き換えをする為だった。その為にダアト式封咒を解除してあの部屋へと侵入した」
「ですが、ダアト式封咒は導師にしか解けない筈です」

言い難そうに発言するイオンにサラは一つ頷く。
確かにその通りだった。
その通りなのだが、サラはダアト式封咒を解く方法を知っていた。
知っていたと言うか、教えて貰ったのだ。

「誰にですか?」
「ユリア・ジュエの弟子だったフランシス・ダアト」
「ふざけた事を言わないで!!」

ガタンと椅子を倒し、勢い良く立ち上がったティアの気迫にナタリアとアニス、ルークは息を呑み、他の人間も信じられないとでも言う様にサラを見詰めていた。
想定内の反応だったのでサラは困った様に頭を掻くに留まったが、信じろという方が難しい話だと思う。
此処で全音素集合体達が都合良く現れて説明してくれたなら楽なのに。
それかせめてローレライだけでも声を届けてくれたらとは思ったが、第七音素が少ないこの土地ではそうもいかない。

ああ、面倒臭い。
やってられない。

早くもだらけて来たサラは自分を叱咤するように咳払いをすると再び説明を繰り返した。

「ティア・グランツの反応は正しい。俄かに信じられる話じゃないと私も思う。だが、私はユリア・ジュエが……いいや、彼女が生まれる前からこの世界で生きている」
「そんなっ、そんな事有り得ないわ!!」
「そう、有り得ない。……人間なら、な」

彼女の言葉にアッシュが目を見開く。
ガイもヴェスペルも驚いた様にサラを見ていた。

「私は人間では無い。今からはそれを前提に話をする。私は嘗て、第二音素の意識集合体であるノームの同位体であった女性から生まれた。いや、生まれたと言うよりも創られたと言うべきか。まだ神が居たとされた時代の話だ。その女性も今の人間に比べたら遥かに永い時を生きた人だった」

アリエッタを膝から降ろし、傍にあった水の入ったボトルを手に取る。

「世界には私の様な同位体が多々生まれた。それよりも昔は精霊達が普通に暮らせる世界であったそうだが、人間が生まれてから精霊達が世界に与えてきた恩恵は忘れ去られ、彼等は地上で生きる術を失った。誰にも見えず、誰にも自分達の声が届かないのを嘆いた彼等は人の胎に宿った子供に自分の音素を突き落とした。それによって属性が様々な同位体達が生まれたんだ。精霊……今で言う音素集合体達は同位体に自分達の声を聞いて貰い、人々へ救いの道を提示したんだ」

喉を潤す為にボトルを傾ける。
流れ込んで来る水がやけに甘いものに感じた。

「今ではもう、二人しか存在しないが」
「二人、ですか?」
「ああ、昔はもっと居たんだが、皆死んでしまった」

それを言う声音は淡々としたものであったが、仮面の下の表情は憂いを帯び、瞳は悲しげに揺れていた。

「……とまぁ、そんな訳で私は人間では無い。気の遠くなるような永い時間も生きたし、ユリア・ジュエ、フレイル・アルバート、ヴァルター・ジグムント、フランシス・ダアトとも面識がある。まぁ、皆故人だがな。友好的な交流は無かったが、取引的なものは結構あったかな」

記憶を辿る。
約2000年前の自分を探す。

「そう、譜術戦争の時とか」
「譜術戦争!?」
「アンタ、あれに参加していたのか!?」

口元に手を当て驚くナタリアと、驚きの余りサラに詰め寄るガイ。
その勢いに若干引きつつも、彼女は頷いた。
ティアは唯否定する様に首を振り、アニスは思わずジェイドを見るが彼は紅い目を細めてサラを見るばかり。
ルークは余り良く分かっていないのか首を傾げ、シンクとアッシュは沈黙を貫いていたがかなり動揺しているらしく、アリエッタがアッシュの膝に座っても二人とも気付いてないらしい。
と言うか素で乗せていた。
慣れというものは恐ろしい。
この中で唯一冷静で納得した表情で彼女の話しを聞いていたのは壁に凭れていたヴェスペルだけだった。

「参加、では無いかな?ユリアに護衛……傭兵を頼まれただけだ。戦火の中心で惑星預言を詠む為に」

今でも良く憶えている。
決して見つかる事の無い地に踏み込んできた少女。
自分を見つけたのはローレライの力があってこそだろうが、それでも静かだった生活を踏み躙られた恨みは消えはしない。
その恨みの対象は主にローレライだが。

「ユリア・ジュエとはさほど交流は無いが、彼女がダアトに裏切られた後にイスパニアとフランクが行った"外殻大地計画"の際にちょこっとフランシス・ダアトからダアト式封咒の解除方法を聞いたのさ」

流石に第二、第三段階の解除方法は聞かなかったけどね。

「………何で、ユリアは預言なんか詠んだんだ」

戸惑うようなアッシュの声にサラは小さく苦笑した。

ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア
本名をメリル・オークランド

ガイ・セシル
本名をガイラルディア・ガラン・ガルディオス

ティア・グランツ
本名をメシュティアリカ・アウラ・フェンデ

そして『聖なる焔の光』であるルーク・フォン・ファブレ

預言によって人生を狂わされた人間達。
だが、サラはそれでも思う。
"今更"と。

「だから、言っただろう?譜術戦争を終わらせる為、」
「ですが、その預言によって人生を狂わされた人も居る筈ですわ」
「だとしても、大した理由では無いと思うよ」

そう、大した理由では無い。
あの時見た少女は人より少し第七音素の扱いに長けているだけの、何処にでも居る少女だったのだから。

「理由なんて、いつも後付さ。偶々詠んだ預言が、戦争終結に持っていくだけの内容だっただけだ」
「貴方っ、」
「君の先祖を悪く言おうとは思わないよ。だけど、私は私の言った言葉を間違いだとは思わない」

そう、彼女は唯、

「当時の彼女はローレライと契約し人知が及ばない程の力を持っていた。だけど彼女は子供だったよ」

唯、

「何処までも無垢で無知な女の子だったよ」

唯、大事なものを守りたかっただけなのだ。









そこに大義名分なんて無かった





そろそろオリジナル小説も書こうかな…

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だから、目立ちすぎだって!










偽りなんかじゃない
そう、絶対に






瘴気が何故存在するのか、彼等は考えた事があるのだろうか。
音素まで穢れきった土地では生命は育たない。
魔界<クリフォト>ではノームの声もシルフの声も届かなかった。
雷鳴が轟き、紫色の空の下ではアクゼリュスと共に落ちてきた一同が辛うじて皆助かっていた。
そんな中、アリエッタはルークの前に彼女を庇うように立ち塞がり、彼女の仲間を睨んでいる。

「根暗ッタ!そこどきなってば!!」
「い・や!!アリエッタ、根暗じゃないもん!!!アニスの、馬鹿!!嫌い!!」

ヴォルトすら掻き消されそうな声量で叫ぶ少女にアッシュは目を見張る。
怒りで肩を震わせる少女の後姿をルークは困惑したように見詰めるしかなかった。

「ルークの、所為じゃ、ない!!総長の、所為!!!」
「何でアンタがルークを庇ってんのよ!?敵でしょう!?」

元々語量が少ない少女は何をどう説明して良いのか分からず、悔しげに唸る。
見かねたシンクが助け舟を出し、ヴァンの企みを事細かに説明した。
チラリとアッシュに視線を向けても彼は心此処にあらずの状態でアリエッタとルークを見ている。

「だとしても信じ難いわ。パッセージリングを消せるのなんて超振動ぐらいじゃないの?」
「アンタさぁ、人の話し聞いてた?」

パッセージリングは元々耐用年数が限界に来ていたのだ。
それこそいつ壊れてもおかしくないように。

「ですが、私には良く見えませんでしたけれども、確かにあそこにはもう一人女性の方が居ましたわ」

ナタリアの言葉に三人は微かに肩を震わせる。
そう、あの時あの部屋にはサラが居た。
恐らく彼女はヴァンよりも先にあの部屋に居たのだろう。
だがセフィロトにはダアト、アルバート、ユリア式封咒が掛けられている。
それを彼女が一人で解除したのか。

「彼女は、味方なんですの?」
「味方、です!サラは、アリエッタ達に、信じろって、言った!!」

悔しそうに目に涙を溜め、胸に抱いた人形をきつく抱き締める。
信じているのだ。
魔物と話せるからといって化物扱いされた自分の頭を優しく撫でてくれた掌を。
本当のイオンが死んだ時も、墓すら立てて貰えなかった彼の為にサラが人知れず森に彼の墓を立ててくれたその優しさを。
独りが怖いと泣いて縋った時に抱き締めてくれた彼女の体温を。
偽りなんかじゃない。
そう、絶対に。

「でもさぁ、そんな事言ってもそれが嘘だったら、」
「嘘じゃねぇよ、悪かったな」

紫色の霧を掻き分ける様にその場に現れた女性は馬鹿にした様に歪んだ表情で嗤った。
それまで黙っていたアッシュがエメラルドの瞳に怒りを滲ませ、シンクが止めようと伸ばした腕をかわしてサラの前まで大股で歩いて行く。
手を伸ばし、胸倉を掴み上げて、アッシュは怒鳴った。

「貴様、何故ヴァンよりも早くあの場所に居た!!?」
「………アッシュ、」
「奴等が、ヴァンがあの場所に辿り着いたのは導師がダアト式封咒を解除したからだ!!だがお前はっ、」
「アッシュ、話すから。ちゃんと話すから、離せ。………な?」

仮面の所為で表情は判らないがやけに呼吸が速いことに気が付く。
視線を下に移せば小さな血溜まりがあり、彼は思わず息を呑んだ。
どす黒く濡れた脇腹辺りに触れれば、べったりとした黒く、鉄錆臭い液体が掌に付着した。

「脇腹に裂傷、肋骨二本骨折、右足骨折、左腕切断ってとこかな」
「お、前……」
「完治するまでに約一時間かな?左腕くっ付けたいんでどっか休める場所ある?」

ぶらぶらと右手に持った左腕を振れば前方の方から引き攣った短い悲鳴が聞こえる。
流石に女性にとってはショッキングな光景かと思いつつも彼女は左腕の切断面を見る。
綺麗に切れているのでくっ付けるのに時間は掛からないだろう。
元々義手なのでそこまで左腕に重要性を感じていないサラは唖然とする一同に視線を向けた。

「タルタロスに移らないか?此処で押し問答していてもしょうがないだろう?」
「………確かに、ね。アッシュ、僕はサラを連れて行くからアリエッタとそいつ等連れて一緒に来てよ」

促す様にシンクに肩を叩かれたアッシュは我に返りアリエッタに視線を移す。
心配するように見詰める少女の後ろに居るのは困惑の表情を浮かべる自分のレプリカ。
彼は少女から目を逸らしシンクとサラの背を追った。

アリエッタはルークを見上げ、次いで沈黙を貫いていたヴェスペルに視線を移す。
サラと良く似た顔。
態度には出さなかったが、シンクとアッシュも驚いていたことだろう。
少女の視線に気付いたヴェスペルは小さく小首を傾げた。

「……ママが、話していた人、ですか?」
「……?」
「アリエッタの、ママ。ライガのママ。ママが、貴方の事、話してた」
「君は、ライガ・クイーンの」

クイーンの名前が出た事によりルークもアリエッタを見る。
間違いでは無いと分かった少女は花が綻ぶ様に笑うと人形を抱え直し、口を開いた。

「ママが、貴方と話せて楽しかったって、言ってました。あと、ルーク」
「な、何?」
「ライガママを、助けてくれて、ありがとう、です。お陰で、元気な兄弟、生まれた、です!」

その場にそぐわない綺麗な笑みに、ルークは一筋涙を零した。









たとえ今は小さくとも、いずれ……








オリキャラ主体です
でもそれもあともう少しで終わるよ…
 

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