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日々の妄想を書き綴る
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赤毛が揃わないっっ!!!←









『いずれ逢えるわ、ヴェスペル。その時はあの子と仲良くしてね』

私達は家族なのだから






カタカタと震える少女の肩が痛ましかったが、自分には成す術が無く、ヴェスペルは漸く落ち着いてきたルークの隣に座っている事しか出来なかった。
廃工場で出会った鮮血のアッシュの顔を見てから彼女はずっとこの調子だ。

現在別行動を取っている他の者達は思い思いの場所に居るのだろう。
ガイが幼馴染である彼女を心配して部屋に残りたがったか心配のし過ぎはかえってされる側に多大な負荷を与えてしまうことがあるのでヴェスペルがやんわりと街へ買い出しに行くことを進めたのだ。

濡れた朱色の髪から雫が滴るのを見咎めて彼は浴室にあったバスタオルで優しく拭う。
視線を上げた少女に楽にしていろと視線で告げると髪を傷めないように丁寧に水分を取り除いていく。

「風邪を引けばガイが心配する」
「ごめん、ありがとう」

笑おうとする少女に首を振り、青年は苦笑する。
初めて彼女と出会ったのはチーグルの森でだった。
自分の目は昔から他の人間には映さないものを映し、耳は魔物、動物、植物等、あらゆる生命の"声"を聞き取ることが出来た。
その日もチーグルの森で住処を追われて住み着いていたライガ・クイーンと会話し、途中彼女の食料を調達する為に立ち去ったのだが、次に戻って来た時はクイーンの気配は無く、代わりに居たのは複数の人間と傷だらけの少女だった。
緑色の髪をした少年、イオンに問えばクイーンは少女が庇い、大人しく森を出て行ったらしい。
長髪の女性、ティアと共に傷を癒してから何故か成り行き上こうして行動を共にしている。
人生何があるか分からないとはこういう時に言うのだな、と感慨深くそう思った。

「なぁ、ヴェスペルって治癒術使えたけど、第七音譜術師なのか?」
「いや、俺の治癒術はまた勝手が違うんだ。俺の治癒術は第二音素を多く使っている」

俺にしか使えない術らしい、と言いながら大分乾いてきた朱色の髪に櫛を通す。
朱色から金へと変わりゆく色素は彼女の名前である焔を連想させた。

「自分でもよく分からないのか?」
「ああ、と言うよりも自分のことが一番分からない。記憶喪失なのかは知らないが、俺は自分の名すら知らなかったんだ」

梳き終わった朱金の髪を高い位置で結び、漸くヴェスペルは一息吐いた。
櫛を受け取ったルークが俺もやる、と彼の後ろに回り長い漆黒の髪に触れる。
自分とは違う色の髪を物珍しそうに見つめながら、慣れない手付きで髪を梳いていく。

「じゃあ、ヴェスペルの名前は誰に教えて貰ったんだ?」

"ヴェスペル・アショーカ・ノクティス"

初めて聞いた時不思議な名前だと思った。

「ルークは音素が一定以上集まると意識を持つって知ってるか?俺はその音素集合体を昔から目視出来るんだ。名前も含めて大概の事は彼等に教えて貰ったよ」
「何でその、音素集合体はヴェスペルの名前を知ってたんだ?もしかして、預言か?」

その言葉に部屋の中の空気がざわめいた。
恐らくシルフの所為だろうが、彼女の居る前で姿を現そうとは思わないらしい。

「アイツ等は預言が嫌いらしい。理由は知らないが、それだけは確かだ」
「そう、なんだ」

部屋の雰囲気がおかしい事に気が付いたのか、ルークもそれ以上追求してくることは無かった。
それから髪を結い上げようと奮闘する彼女に付き合って三十分間拘束されてしまったのは言うまでも無い。






やけに目が冴えてしまったヴェスペルは月明かりの中夜道を彷徨う。
街から出なければ問題無い筈だ。
彼は脳裏に浮かんだ旋律をそのまま唇の乗せて紡ぐ。


トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ

クロア リュオ ズェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ズェ

ヴァ レィ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リュオ トゥエ クロア


そう言えば、最初に口から出た旋律はダアトの軍人、ティアが紡いでいたそれだ。
何故自分がそれを知っているのかヴェスペルには分からない。
脳裏に浮かび上がる新しい旋律を声に出そうか悩んでいると、不意に音素が乱れる気配がし、彼は視線を前方に向けた。

『それ以上歌うんじゃねぇぞ』
『まさか、貴方が歌えるなんて思わなかったわ。流石ノームの子』
「ス……じゃねぇ、シャドウにシルフ……」

黒髪の少年は呆れた様に、シルフは純粋に驚いたように青年を見ていた。
言っている意味が分からない為首を傾げるしかないヴェスペルに少年は溜め息を吐いた。

『それは譜歌だ。聞いた事位はあるだろ?お前は俺達と交信出来るからまだしも、その効果は譜術と似た様なものだ。やたら滅多に歌うなよ』
『まぁ、ヴェスペルが歌う譜歌は譜術の発動と言うよりも私達を呼んでいる感じがしたけどね』

だから来たのよ、と笑うシルフはふわりと空中に浮かび上がる。
それを目で追いながら、彼は口を開いた。

「そう言えば、ノームの婆様や、サラマンダー達は?」
『……"此処"では"イフリート"だ。忘れたのか?他の奴等は皆"アイツ"の方に付きっ切りだ。子離れ出来てないとはこういう事だな』
『貴方だって似たようなものじゃない、シャドウ』

鈴の音のような声音でコロコロと笑う彼女に少年はうるせぇと悪態を吐く。

『いずれ逢えるわ、ヴェスペル。その時はあの子と仲良くしてね』

私達は家族なのだから。

楽しそうに声を弾ませる第三音素の意識集合体に、ヴェスペルは首を傾げる他無かった。









その存在が、これから大きく運命を揺さぶる事になるなんて












オリジナル設定どっさり。
ヴェスはルークのお兄ちゃんあたりになってくれたらなと思いながら書きました
性格はサラほど悪くは無いけど中身は結構真っ黒
大佐と普通にお話しできるんじゃないでしょうか??

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まぁ、続きになるのかな……??










シンクの言葉にアッシュはきつく瞳を閉じる
雨音はもう聞こえず、鼓膜を震わせるのは互いの心音だけだった






最近良く寝入り端に何処からとも無く歌声が聞こえてくる。
知らない、だけど何処かで聞いたことがある詩と優しい声音。
歌っているのは恐らく女性だろう。
アッシュはこの歌に聞き覚えがあったが、正確には覚えていない。
だが、その歌を聴くと気持ちが酷く穏やかになる。
歌が聞こえる日には決して悪夢は見なかった。
懐かしい、声。

思考の海から意識を浮上させる。
雨によって下がった前髪が鬱陶しく、アッシュは忌々しげに舌を打った。
それを見咎めたシンクが溜め息を吐き、彼にタオルを放ると、頃合かと口を開く。

「まさかアンタのレプリカが女だとは流石に思わなかったよ」
「だろうな」

自嘲するように吐き捨てる青年に肩を竦めて、シンクは仮面を外すと彼の膝に乗り、視線を合わせた。
不機嫌、と言うよりも気落ちしている彼の頬に掌を当てれば酷く冷えているのが分かる。
アッシュは自分の居場所を奪ったレプリカを憎んでいるようにも見えたが、今は憎んでいると言うよりも諦めの方が強いのだろう。
彼は雨の日や、月が綺麗な夜はこうして酷く哀しそうな表情をすることが多々あった。
シンクにも、アリエッタにもその理由は分からない。
だが、そんな日はいつも彼が消えてしまうのではないかと不本意ながら不安になる。
だからシンクは諭すように、願うように毎回アッシュに告げるのだ。

「アンタの居場所は"此処"だよ。僕と、アリエッタと、サラの傍」

アンタだって、そう言ったよね。

そう言って自分の首に腕を回して肩に顔を埋めるシンクの背をアッシュは緩く撫でる。

「アッシュに気付かない居場所なんてもうどうでもいいだろ。アッシュのことを捨てた居場所なんて、」

忘れてしまえばいい。

その言葉が音になる事は無かったが、察したアッシュが少年に回した腕に力を込める。
同じ様にシンクも青年を抱く腕の力を強めた。
アッシュは時折、自分が本当に"此処"に存在するのか分からなくなる時があると言っていた。
初めてそれを明かしたのはアリエッタだったか。
少女は今の自分と同じ様に彼を抱き締めていたらしい。

「何度だって言うよ」

アッシュの居場所は"此処"だ。

「アッシュは"此処"に居るんだ」

あそこじゃない。
あの場所じゃない。
あの場所は『ルーク・フォン・ファブレ』しか求めていない。
だから、だから、

「過去を見ないで」

"此処"に居てよ。

シンクの言葉にアッシュはきつく瞳を閉じる。
雨音はもう聞こえず、鼓膜を震わせるのは互いの心音だけだった。





「アリエッタ、ルーク嫌いじゃ無い、です」

人形を胸に抱きながらアリエッタは言う。
ライガ・クイーンのしなやかな肢体を労わる様に掌で撫でながらサラは薄く微笑んだ。

「ルーク、ママを助けてくれた。きっと、痛かった、です」

喉を鳴らすクイーンに、アリエッタは年相応の笑みを浮かべてその毛並みに顔を埋める。
彼女が言った痛かったというのは陰に潜んでいた死霊使いによって放たれたサンダーブレードが少女の身体に直撃したことだろう。
彼女を救う為潜んでいた自分達でさえその光景には驚愕を隠せなかった。
仮にもキムラスカの王族である少女を、不可抗力とはいえマルクトの軍人が傷付けたのだ。
クイーンを庇う為とはいえ、下手をしたら確実に戦争に繋がる行為が目の前で起こるとは流石に予測がつかなかった。

「アリエッタ、お礼したい、です。ルークの事、嫌いじゃ、無い。でも、」

顔を上げた少女が瞳を輝かせてサラを見る。
サラはアリエッタの方に耳を寄せてやれば、彼女は内緒話をするかのように片手を添えて小さな声で囁いた。

「でもね、アリエッタは、アッシュの方が好き、です」

可憐に微笑む少女にサラも心が温かくなる。
"前回"は死霊使いによって死んでしまう筈だったライガ・クイーンとその子供が生きている時点で既に彼女が知っている"前回"は少なからず覆された。

「……ローレライ」

お前の同位体達は私の予想の斜め上を行くんだな。

それが心底嬉しいと感じている。
空を見上げれば暗い曇天が薄れてきていた。









雲の境界から微かに差し込んできたレムの光が孤独な魂に届けば良いと願う。

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前回の続き
またしても赤毛が出なくて書いてて苛々してきました←
オリジナル小説からの設定を含むところがありますが、
流してやってください←









またこうして逢えた
それが嬉しかった






瞼を上げれば黄ばんだ天井が視界に入り込み、サラは瞬時に此処が神託の盾内部にある自室だと思い至る。
窓を叩く雨に若干の頭痛を感じつつも上体を起こせば、隣にはいつの間にか潜り込んでいたアリエッタが穏やかな寝息を立てていた。
"先"の世界では死んでしまう幼い少女の髪を優しく梳く。
確かローレライの話では六神将はディストを除いて全員死んだと言っていた。
アッシュとルークが死ぬのも嫌だが、彼らが死ぬのも出来得る限り回避したい。
特にこの少女と彼の少年は。

サラは苦笑しながらベッドから降りると冷蔵庫から水の入ったボトルを取り出し口に含む。
死んで、目覚めて、再び物質世界に舞い戻ってきた。
喉を通る水がそれを教えてくれる。
不意に窓の外が一瞬光り、次いで岩をも砕く様なけたたましい轟音が鳴り響いた。

「"グロム"、いや此処では"ヴォルト"か……。やけに機嫌が良いな」

サラの独り言に答えるように雷が地に落ちる。
その轟音に寝ていたアリエッタが飛び起きて慌てて周りを見渡していた。

「アリエッタ」

呼べば肩を震わせてサラを凝視する。
裸足のままベッドから飛び降りるとタックルする様に彼女に飛びついた。
昔から雷が怖いと言っていた少女はヴォルトが鳴り響く日にはサラの部屋へと逃げ込んでくるようになった。
縋り付いてくる少女を抱き締めて、あやすように頭を撫でる。
少し落ち着いたのか、顔を上げたアリエッタが彼女の表情を見て小さく首を傾げた。

「……サラ、良い事あった、です?」
「……うん、あったよ」

またこうして逢えた。
それが嬉しかった。

「サラが嬉しいと、アリエッタも嬉しい、です」

本当に嬉しそうにはにかむ少女が愛おしくてサラは自分よりも遥かに幼い存在を抱き締める。
彼女の小さな手が自分の頭を慰めるように撫でてくるのに笑いながら、サラは死なせるものかと強く思った。
全てが守れるなんて思わない。
そんな幻想はあの日、最も大切な者を失った時点で気付いていた。
自分はこの両腕が届く範囲でしか守れない。
それでも思う。
大切なモノは何一つ奪わせないと心に誓う。
彼等に降り注ぐ災厄を一つ残らず祓ってみせよう。
そして何より、

「起きた時にアリエッタが居て、嬉しかった」

サラ<死を齎す者>からも守ってみせよう。






朝再び目覚めて日付を確かめれば自分が彼等から一年間行方不明になるきっかけの任務が入っていた。
確かあの任務の真相はアッシュに近付き過ぎてヴァンに厄介払いの為に告げられた任務だった筈。
半年間軽い記憶障害に陥って漸く動けるようになったと思ったらダアトでは自分の存在が既に死んでいると判明した。
貯めていた貯金も全てヴァンに取られ、一文無しでギガントモンスターに半ば八つ当たりしながら生計を立てていたような気がする。

苦い記憶を振り払うように頭を振り、今日の任務を回避するべく行動を開始した。
向かうはヴァンの執務室。
リグレットが居たら面倒臭そうだな、と思いつつサラは数回ノックし、許しを得て中へと入る。
幸いリグレットは居ないらしい。
運は自分に味方したと内心で安堵の溜め息を吐いてヴァンに視線を合わせた。

「今日入っていた任務、諸事情で行けなくなった。代役を立ててくれ」
「急だな。……理由を聞こうか」
「良いのか?本当に聞いても良いのか?聞いて後悔するなよ」

無表情で畳み掛けるように確認を取ると、サラはオクターブ低い声でその理由を答える。

「生理」
「………分かった。任務には変わりにリグレットとラルゴに行って貰う」
「諸事情甚だしくてごめんね、総長。後よろしく」

嘘は言っていない。
前回の自分がそれでも任務に就いたのを考えるとどれ程健気か窺える。
昔の自分は今まで生きてきた中でも結構な良い子だったが、今回はもう面倒臭いので目的だけを追い続けようと決めた。
正直言って頭を使うことが余り好きでは無い。
彼等意外皆殺しにするかと物騒な事を考えてみるがそれではヴァンの目的を手伝ってしまう事になる。
それは流石に避けたい。
寧ろヴァンの目的を粉々に砕いてしまいたいのが本音だ。
今やるべき事は一年後に備えることだろう。

「あー、腹痛ぇな…チクショウ」

小さな声で呟かれた声音は誰の耳に届くことは無く、空気に乗ってそのまま消えた。









罪深い私でもそれだけは赦してほしい












ホントに赤毛がでねぇな!!!
サラさんは結構こんな感じです
ヴァンに対しては特別何かを感じている訳ではないけれど
ああ、可哀想な奴だな、ぐらい
それは同情でもなく、唯の他人に対する思いだけど
赤毛達が彼に懐いていたのを知っているから生かしたいなぁ、と思ってるかも
書いてる自分でも分からない

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書きたい所だけ書く逆行ネタその1
今回はオリジナルキャラしか出てきてません、すいません!!
それでもよろしければ!↓











目を開けたら真白い空間に居た。
彼女は数回瞬きして辺りを見渡すが、次第にその行動に意味が無いと悟り小さく嘆息する。
次に試みたのは自分の記憶を遡る事。

自分の意識は気の遠くなる程の時間を生きていた。
そんな中見つけた自分の同類とも言える存在。
まだ幼かった、紅色の髪が特徴だった少年。
彼は第七音素集合体<ローレライ>の同位体だった。

孤独な少年を見つけたのは偶然だった。
無謀な任務で疲れ切った身体を休める為部屋に戻れば外から騒音が響き、心底煩わしかったのを覚えている。
怒りに任せ、騒がしくしていた報復に投げ飛ばした兵士に混じってその少年が居た。
受身も取れず背中を強か打った所為か、咳き込む少年を抱えて部屋に戻り、治療した。
今思えば自分の第一印象は最悪だったのだろう。

だが、それも全て終わってしまった事。
自分は自分の目的を果たしたが故に死んだ。
サラは上体を起こして虚空を睨み付けた。
何かが其処に居ると感じて。

「いい加減に姿を現したらどうなんだ?」

ローレライ?

嘲る様にそう言えば今まで何も無かった空間が歪んで神々しい光が現れる。
それは次第に人の形に姿を変え、緋色の髪をした長身の男性がサラの目の前に佇んでいた。

『………よく我だと判ったな』
「他の音素集合体とは気配が違った。どちらかと言えばアッシュに近い気配だったからな。直ぐに判ったよ」

緋色の長髪と紺碧の瞳。
アッシュと良く似た男は痛ましそうな表情を隠すように俯いたのを見て、サラは訝しむように眉間に皺を寄せた。
ローレライが居ることから此処は音譜帯なのだろうが、何故自分が此処に居るのかが解らない。
何より自分は彼に預かっていたモノ全て返したら消え逝く筈だった。
彼女は拭いきれない嫌な予感に胸を締め付けられながらもローレライに疑問を投げかける。

「ローレライ、何があったんだ?私は本来なら何処にも存在しない筈だ。なのに概念はこうして残っている。そして何故そんな悲しそうな顔をする?此処が音譜帯なら、お前はアッシュとルークによって自由になったんだろう?」

二千年越しの悲願が達成したのだ。
何を悲しむ必要がある。

彼は一瞬逡巡した後に口を開いた。
サラはそれを邪魔しないようにと自身の口を閉じてローレライの言葉を待った。

『………アッシュを此方に連れ戻した』
「此方って、どういう事だ?」

ローレライは手短にエルドラントでの出来事をサラに話す。
アッシュとルークが罠にはまり、アッシュが残り、死んだこと。
先へと進んだルークがヴァンを打ち倒し自分を解放したこと。
そして彼等の間で起こった大爆発。
ルークの音素はアッシュに吸収され死んだアッシュが生き返ったこと。

『アッシュはルークの願いとルークが己の仲間と交わした約束を果たす為、生きる事を決めた。だが、』

彼等はアッシュを認めなかった。
彼等が求めていたのは"ルーク"で"アッシュ"では無かった。
彼の姫とて仲間が居る手前素直には喜べなかった。
既に半身を喰らって生き延びてしまった事実に心が壊れてしまっていたアッシュは諦めてしまった。

『見ていることが出来なかった。我とアッシュの間に大爆発を起こし、此処へと連れ戻したのだ』

大爆発は完全同位体の間でしか起こらないと聞いたが、相手は未だ未知の第七音素集合体。
人間の理屈と理論を提示したところで軽く覆されるだろう。

「じゃあ、アッシュは今お前の"中"に居るのか」
『ああ。そしてルークの心も』
「心?」
『音素も記憶もアッシュへと流れたが、融合する寸前に心だけは我の中に引き込んだ。お前も同じだ、サラ。消える筈だったお前の心をノームがかき集めて、こうして存在している』

ノームという名を聞いて彼女は褐色の瞳を見開いた。
それに苦笑したローレライがサラの頬にやんわりと触れる。

「私はノームの同位体では無い。それは"アイツ"だろう?」
『だがお前は"彼"の半身だろう?例えイレギュラーな存在だとしてもお前は長い時間、お前の中で"彼"を守ってきた』

ノームは"お前"の事も大事だと言っていたぞ。

頬から離れた手を視線で追いつつ、お人好し、と彼女は笑う。
原罪を取り込んだ大罪人である自分を彼女は助けたというのか。
自分の周りにはお人好しが多いとサラは思う。
アッシュとて同じだ。
何だかんだ言いつつも彼は最初からレプリカを"ルーク"と呼び、屑だの劣化だの罵倒しながらも彼等に協力していた。

嗚呼、なのに彼等はアッシュを切り捨てたのか。
仕方がない事だと思う。
人には優先順位があるのは当たり前の事だ。
もしあの日、アッシュがルークと共に二人で帰還していれば、彼も受け入れられただろう。

だが、それもやはり今更だ。
現に今、アッシュはローレライの下でボロボロになってしまった心を癒すように眠りに着いている。

サラはローレライの"中"もう一つ光を見つけて緩く微笑んだ。

「久し振り、ルーク」

光は彼女の挨拶に応えるかのように点滅している。
橙色の優しい光は弱々しく光る紅の光に寄り添っていた。

「ルークが守っているのか」
『ああ』
「まったく、見せつけてくれるな」

からかうように言えば、激しく点滅する光に彼が恥ずかしがっていることが伺え、サラは優しげな笑みを浮かべる。
肉体を無くしても彼等の心はこんなにも優しくて、脆い。
きっとルークの仲間は知らないだろう。
ルークがアッシュを大事に思うようにアッシュがルークを大事に思っていることを。
生前も今と同じ様に、互いが負った傷を癒すように寄り添っていたことを。
知っているのはギンジと漆黒の翼ぐらいか。

「唯、見ているだけなら誰にだって出来るんだ」
『………』
「でも、それじゃあ何も分からない、知ることが出来ない。アッシュの事もルークの事も。ルークはアッシュを良く見ていてくれた。アッシュもルークを良く見ていた。私はそれが嬉しかった。だからルーク、」

ありがとう。

「"アッシュ"に気付いてくれて、ありがとう」

二人の焔を優しく見つめて、サラはローレライに向き直る。
既に予想は付いているが、それでもその口から何故自分の前に姿を現したか問う為に。

「で、ローレライ。私に何の用なんだ?」
『頼みがある』

厳かに告げる音素集合体にサラ<死をもたらす者>は静かに笑んだ。

『過去に遡り、我が愛し子達を救って欲しい』

彼女の答えは聞かずとも分かる。
彼女は何処までも自分の大切な者には優しいのだから。









不敵に笑うその表情がローレライに向けられた答えだった。












何故サラさんがこうも不敵なのかは後々明かします←
赤毛達には何時でも何処でも寄り添っていてもらいたいですね

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「思えばろくな人生じゃなかった」

ルークの手を握りながらアッシュは言う。
そんな彼をルークは辛そうに見つめるが、視線に気が付いたアッシュがお前の所為では無いと安心させるように微笑んだ。

「言い方が悪かったな。お前に出逢えた以外、ろくでもなかった。お前に出逢えた事が、生きてきた中で一番の幸福だった」

そう言って笑う自分と同じ顔の青年に、ルークは表情を緩めて同意を示した。

「俺もだよ。アッシュに出逢えて良かった。辛い事もあったけど、楽しい事もあった。俺の一生が、箱庭みたいな場所で終わらずに済んで良かった」

真っ直ぐな目でアッシュに語り掛けるのを邪魔しないように、頷いて先を促す。
ルークは少し早口になりながら、必死に言葉を紡いだ。

「だって、彼処から出られなかったら、アッシュには出逢えなかった。だからティアにも、俺を生み出したヴァン師匠にも感謝してるんだ。他のみんなにだって」
「ああ」

優しく肯定すると、息を詰まらせながら、でもね、とルークは言う。

「でも、それでも、辛かったなぁ」
「………」
「感謝してた。これは本当。俺の本心。でもそれ以上に怖かった。いつまた見捨てられてしまうのか、考えたら苦しくて、息が出来なかった。死んでくださいって言われた時、悲しかったけど、俺が死んで済むならって思った。なのに死なないでくれって言われて吃驚した。訳が分からなくて、どうして良いのか分からなくて、」

どれがみんなの望む"聖なる焔"か分からなくて、

「俺、ちゃんと出来たよな?罪も、少しだけでも償えたかな?」
「ああ、出来たさ。お前は良くやった」

穏やかなエメラルドの瞳が、水の幕が張られた翡翠の瞳を見つめる。
幾ら外見が青年のそれでも、精神はたったの七つの子供なのだ。
七歳の子供が世界の為にと奔走した。
いや、奔走させてしまった。
本来ならば自分が背負うべきものだったのに。
だが、今更何を言ったところで所詮は過ぎてしまったことにすぎない。
原因を突き詰めてしまえば行き着く答えは人間が存在している所為だ、と言った人物を思い出してアッシュは思わず笑った。

「アッシュ?」
「いや、アイツの事を思い出しただけだ」

あの頃の自分の、唯一の理解者だった女性。
嘗て同じ宿命を背負った哀しい人。
自分の、自分達の幸せを思って泣いてくれた唯一の人。
彼女は最後、死ぬなとも生きろとも言わなかった。
唯、幸せになってくれと笑いながら泣いていた。
"俺達"の幸せを願ってくれた。

「アイツはいつだって見守っていてくれた」

幾ら自分が間違いを犯しても、彼女は黙って傍に居てくれた。
ルークの"中"がどれ程傷付いているのかを知って自分の言動の愚かさを嫌悪した時も、慰めるわけでも責めるわけでも無く、唯安堵したような顔をして気付けて良かったと笑っていた。
彼女は自分を無駄に養護しない代わりに責める事も無い。
一見冷めているようにも感じられるが、世界中が自分の敵になったらどんな事をしてだって守ってやると言ってくれた。

だから安心して前へと進め。
本当に間違えてしまいそうな時は、ちゃんと教えてやるから。

「子供でいられなかった俺を、唯の子供として見てくれた」

それがどれ程自分を救ってくれたかなんて彼女は知らないのだろう。

「俺はきっと、アイツの事が好きだったんだと思う」

母として、姉として、友として、一人の人間として。
彼女は闇の中に居た自分を励ましてくれていた。

「………アイツに出逢えた事も、幸福の内の一つに入るのだろうな」
「……やっぱりそっくりだ」
「?」
「ヴェスペルも、そういう人だったんだ。ヴェスはアクゼリュスの時もミュウと一緒に俺を待っていてくれた。俺だけの所為じゃないって、俺を一人にしてしまった自分にも非があるって謝ってた。何かを間違った時も、俺と一緒に考えてくれた」

間違えるのは誰しも当たり前だと言って、同じ間違いを繰り返さないのが大切なんだと教えてくれた。

「きっとヴェスも、俺の事七歳の子供として見ていてくれたんだ」

卑下するわけでも無く、見下すわけでも無く、七歳であることが当たり前のように接してくれた。
唯一旅の仲間の中で背伸びすること無く、気を抜いて一緒に居ることが出来た人だった。

「ヴェスは、サラが居なくなって寂しいって言ってた」
「…………」
「漸くサラとの記憶を取り戻せたのに、サラは消えてしまった。独りは寂しいって、哀しそうに笑いながら言っていた」

やっと一緒に居られると思ったのに消えてしまった。
それでも、彼女が還ってくるのを待つと言っていた。

「俺正直、ヴェスが羨ましかった。サラが初めて俺達に顔を曝した時、ヴェスがサラとの記憶が抜け落ちているのが分かったんだ。でもサラは笑って思い出さなくても良いって言っていた」

思い出さなくても良いよ。
君にまた逢えただけで、それだけで私は報われた。
だからまた、初めましてから始めよう。

「その時気付いたんだ。俺きっと屋敷に居た頃、ナタリアや屋敷のみんなにそう言って貰いたかったんだって」
「ルーク、」
「今更だけどさ、そう思ったんだ」

生まれてきてくれて、また私と出逢ってくれてありがとう。

「生きているだけで良いって言ったサラの顔は凄く優しかったんだ」

まるで大切な宝物を見るように。

「アイツは昔から強かった。強く在ろうとしていた。それに、憧れた」

アッシュはルークの頭を慰めるように撫でながら、薄く笑う。
思えば昔から、彼女は自分の常識の斜め上を走っていた気がする。
出会った日も片手で軽く投げられた。
その後だって手合わせで勝ったことは一度も無かった。
アリエッタの"お友達"とも最初から何事も無く接し、シンクの卑屈な部分に全力でぶつかっていった。
他の六神将とだって、あのヴァンとだって彼女は分け隔て無く過ごしていた。

「アイツは他の音素集合体やローレライだって脅して絆して従わせるような無茶苦茶な女だぞ。そんなサラが幸せになれと言ったんだ」

これで幸せにならなかったら後が怖いぞ。

「……うん、そうだね。ヴェスもそれを願ってくれていた」

誰の為でも無い、俺達の幸せを。

「帰ろう、アッシュ。あの世界に」
「ああ、帰ろうルーク」









今度こそ二人で二人だけの幸せを












うちのオリキャラは自分のオリジナル小説(まだ書いていませんが)からです
なので少しわけが分からない所もあるかもしれませんが、
サラはお母さん気質というか気に入ったら放っておけないタイプで
ヴェスは何に対しても優しい子ですが人間嫌いです
後々詳細を書こうと思います

その内シンアリ逆行か、アッシュとサラ逆行をにょたルクでやりたい
アビス未プレイだけどやってみたいと思っています

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