日々の妄想を書き綴る
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頭の中で何かが弾けた気がした。
それは断続的に鈍痛を与え、アッシュは塀に手を付き、空いた方の掌をこめかみに当てる。
子供の泣き叫ぶ声が頭の中で響いていた。
狂った様に謝り続ける声の主は自分のレプリカ。
朱色の髪と、翡翠色の瞳の……少女。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!』
「………屑が、何をそんなに謝る」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!……………アッ、シュ………』
「っ!?」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、アッシュ……、アッシュ!!!』
「レプ、リカ………?」
痛みを堪えて足を踏み出す。
向かう先は彼女の下。
普段なら呼ばれても頼まれても、自分から彼女の元へ向かうことは無い。
だが、この時だけは行かなければいけない気がした。
行かなければ取り返しが付かなくなると何かが頭の中で警告したから。
宿屋のフロントで鍵を借り、彼女が居る部屋へと向かう。
兄妹だと言えば宿の主は快く渡してくれた。
一人部屋だと聞いたから彼女の仲間と鉢合わせする事はまず無いだろう。
少々忍びないと思いつつも部屋の扉を開ければ、当たり前だが中は暗かった。
後ろ手に鍵を閉め、注意していなければ聞き逃してしまいそうなぐらい小さな声ですすり泣く少女の下へ向かう。
ベッドサイドの明かりを付け、苦悶の表情を浮かべながら眠る少女の髪を気紛れに梳く。
だが、頭の中の叫びは未だに消えない。
己に向けて謝罪を繰り返す謝罪を繰り返す少女を呼ぶが、届かない。
次第に声は拒絶するように大きくなる。
ごめんなさい
ごめんなさい
アッシュ
ごめんなさい
俺が
俺が、
『生まれてこなければ――!!』
「ルークッ!!」
肩を掴み強く揺さぶれば驚いたような翡翠がぼんやりとアッシュを移す。
最初は寝惚けた顔で彼を見つめるルークの表情が徐々に恐怖に染まり、呼吸が速くなっていく。
無駄に怖がらせないようにと静かにベッドに腰を掛け、あやす様にゆっくりと朱色の髪を梳いた。
一度、二度。
荒くなった呼吸が治まるまで。
そのリズムに合わせて深呼吸を繰り返すルークは、普段とは違う様子のアッシュに戸惑いながらも嬉しいと感じていた。
優しい手付きが嬉しくて悲しくて、見せまいと決めていた涙が頬を伝う。
「おい、」
「っ、あっ…しゅ、」
「………レプリカ?」
「ふ、ぅ、っく……」
痛い、痛い。
胸元に手を当てる。
心が痛かった。
いつからこんな風になったのだろう。
アッシュが傍に居るだけで苦しかった。
偶に情報交換としてアッシュと話す時間が楽しかった。
建前も理由も要らずアッシュと話すことが出来るナタリアが羨ましかった。
自分はアッシュのレプリカで、彼に恨まれるのは当たり前のこと。
それどころかアクゼリュスの罪人である自分が彼を想うなど赦されないのに。
赦される筈が、無いのに。
「ごめん、なさい…ごめんなさい」
なのに自分は彼が好きだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
幸せになる資格なんて無いのに。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
生まれてきてはいけなかったのに―――!!
「………レプリカ」
「ごめ、なさい……」
「………」
「もう、平気だから。俺また、変な夢見てアッシュに迷惑掛けたんだろ?わざわざ来てくれて、ありがとう」
大丈夫大丈夫大丈夫。
明日からまた笑えるから。
みんなとも、ちゃんと笑えるから。
「だから、もう大丈「何が平気だ、何が大丈夫だ」
細い腕を引き上体を起こさせる。
翡翠の瞳を丸く見開く少女は、何故か苦しそうな表情をした青年に首を傾げた。
翡翠とエメラルドが交差し、先に視線を逸らしたのはアッシュ。
未だに彼の意図が掴めないルークはジッとアッシュを見つめていた。
「何故、独りで傷付く?お前の仲間には「駄目なんだよ。俺は罪を犯したから。俺は生きている限り償わないと。俺は俺の生を以て、世界を幸せにしなきゃいけないんだ。だから俺は笑っていなきゃいけないんだ。そうすればみんな安心してくれる。俺には弱音を吐く資格なんて無いから。迷惑を掛けたら見限られてしまうから。だってそうでしょ、アッシュ?俺が生まれなければアッシュは名前を奪われることなくずっと日溜まりに居れたんだから。俺が居たから、アッシュは家に帰れなくなったんだから」
あくまで淡々と喋るルークにアッシュは戦慄する。
彼女は壊れてしまっている。
もう随分と前にアクゼリュスで。
見限られて見放されて、7歳だったルークは殺されてしまった。
他でもない自分達によって。
いや、彼女を此処まで壊してしまったのは、
「そこまでお前を追い詰めてしまったのは、俺か………」
「違う、違うよ!アッシュは、アッシュだけは、俺を見捨てないでいてくれた。俺に外を見せてくれた。アッシュが居たから、アッシュが居なかったら、俺は前に進めなかった。だから俺はアッシュに感謝してる」
しきりに首を振り、言い聞かせるように彼の肩を掴んだ手が震え、それを認めたアッシュはやんわりとその手を外させた。
よく見ると翡翠の瞳には水の幕が張り、今にも雫が零れ落ちそうだった。
その表情を見ていることが出来なくて、半ば衝動的に細い肢体を掻き抱く。
「アッシュ!?」
同じ筈なのに、同じ存在で生まれてきた筈なのに、腕の中に居る存在は自分とはまったく異なる存在だった。
今更、気付いた。
いや、今まで気付きたく無かっただけなのかもしれない。
アクゼリュスで見た時よりも確実に痩せ、細くなった肩に顔を埋める。
「………、アッシュ?」
「聞け、ルーク」
あまり呼ばない名前を口にすれば、大袈裟に肩が跳ねた。
慰めるように背を叩き、アッシュは言葉を続ける。
「俺はお前を憎んでいた。だが、それ以上に困惑していた。アクゼリュスでの事も、あれは唯の八つ当たりだ。本来なら俺の罪だった筈なのに」
「ち、違う!あれは、」
「あぁ、確かに馬鹿正直にヴァンについて行ったお前にも問題があった。だが、あの時はお前にとってヴァンは唯一の存在だったんだろう?…………俺も同じだった」
父の愛情に焦がれていた。
自分という存在を認めてもらいたかった。
「"俺"を見てほしかった。"聖なる焔"では無く、"俺自身"を」
例え仮初めでも、それを唯一与えてくれたのはヴァンだった。
その点では、自分も彼女も同じだろう。
「そんな俺が、お前を責められる訳がなかったんだ。なのに俺はお前を詰り、責めた。責められるべき存在は俺だったのに」
「違う、違うよ……。アッシュは悪くない。アッシュは被害者じゃないか。俺は無知で、出来損ないで、アクゼリュスを落としたんだ。アッシュは必死に止めようとしてくれていたのに」
頼りない力で自分の服を掴むルークをアッシュは更に力を込めて抱き締める。
これは懺悔だ。
自分が楽になりたいが為の自己満足だ。
それでも言葉を止める事は出来ない。
「ならば、俺もその罪を背負う」
「なん、」
「"聖なる焔"が背負うべき罪なら俺も同罪だ。背負わせろ、ルーク。もう、お前だけが抱える必要は無い」
そう言えば、恐々と背に回される腕に言いようの無い安堵が胸の内を締めた。
微かに聞こえる嗚咽が、震える身体が痛ましくて、アッシュは彼女を慈しむように背を撫でる。
最初は憎んでいた。
次第に疑問が浮かんだ。
箱庭で育てられた無知な少女が哀れで仕方がなかった。
そうは思っても中々感情と思考が一致してくれず、責め、傷付けた。
だが、見栄も建て前も言い訳も全て取り去れば残るのは焦がれるような愛しさだけで。
直向きに、傷付きながらも進むルークにいつの間にか惹かれていた。
認めるしかないじゃないか。
自分は彼女が愛おしくて、彼女を愛したくて仕方がないんだ。
「ルーク、」
この世に一人しか居ない自分の半身。
「ルーク、」
独りだった自分が求めていた存在。
「好きだ、ルーク」
「ぇ?」
「好きなんだ、お前のことが」
早鐘を打つ鼓動に心の中で自嘲する。
これ程までに緊張することは今まで生きてきてそう無かった。
ルークは信じられないとでも言うように首を振る。
徐に開いた口から出た声は震えていた。
「駄目、だよ。だっ、て……俺、レプリカで、罪人で……ナタリアが、居るから……アッシュのこと、好きになっちゃ、いけなくて……」
「っ、」
「ナタリアは、ずっとずっと、アッシュを待っていて、だから俺は、」
「ルーク?」
「俺が、幾らアッシュを好きでも、隠さなきゃ、いけないって………、でも………俺、は……」
アッシュを好きでいても、いいの?
「アッシュ、俺、俺っ、」
「好きだ、ルーク、お前だけが」
「っ、俺も、好き。好きだよ、アッシュ!」
気付いたら、これ程までに焦がれていた。
気付いたら、これ程までに愛していた。
心が歓喜で震える。
抱き合えるのは別の個体だから。
今なら辛かった日々にも感謝できる。
独りぼっちだった自分達が漸く独りではなくなったのだから。
「俺の前では我慢するな。泣きたいなら泣いて良い。寂しかったら、辛かったら俺を呼べ」
「うん、うん!」
「全て終わったら、」
何にも縛られること無く、二人で生きていこう。
誓うように口付ければ涙でしょっぱくて、何故だかそれが嬉しくて、幸せで、二人は額を合わせて笑った。
無二の約束
永遠に離れる事無く
ずっと二人で
アッシュもルークもお互いに依存しているような気がしてきた今日この頃
まぁ、二人が幸せなら何でもいいかな、と開き直ってみる
ルークは泣かせたくなります
アッシュは甘やかしてあげたくなります
最終的には二人纏めて愛してあげたくなります
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