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彼が還ってきてから五年、相変わらず世界はアラガミによって荒んでいた。
何かが変わったかと聞かれれば、何も、と答えるしかない。
だが、彼女の世界は確かに変わっていた。
目の前に積まれた書類の山に目を通しながら、沙羅は小さく息を吐く。
一年前に大尉へと昇進してから仕事がやけに増えたのは気のせいだろうか。
凝り固まった肩を解しながら此処まできた道のりを一つ一つ思い返していく。
ゴッドイーターになって直ぐ怒涛のような日々を過ぎしてきたからか、ここ数年は時間の流れが穏やかに感じられた。
だが、決して暇という訳ではなく、新種のアラガミが現れたりと忙しいことは否めないが身内に起こる事件よりは数倍マシかと思えた。
伸びをしたことによってバキバキと鳴る背中に長時間同じ体制で居た事を改めて実感する。
不意に扉が開き、沙羅は意識をそちらへと向ける。
そこには相変わらず美しい銀髪をした自分の上官が立っていた。
彼は不遜に目を眇めながら勝手知ったる動作でコーヒーを淹れるとソファに深く腰を掛ける。
目元を指で押す動作から珍しく真面目に仕事をしていたらしい。
いや、本当に珍しい。
内心感嘆しながら彼女は自分も休憩を取ることに決め、冷蔵庫の中から水の入ったペットボトルを取り出し蓮の向かい側に座る。
喉を潤す水分に一息吐くと、沙羅は改めて彼を見た。
「本部からの呼び出しはどうだったんです?」
「…そろそろ退役したらどうかとのお達しだ」
その口振りからすると強制ではないらしいが、彼は苛ついた様に高い位置で結ってあった髪を解くとマグカップを口元へ運んだ。
喉仏が上下するのをどこか達観しながら見詰めていれば、再び薄い唇が開かれる。
「退役して、支部長に就任しないかと」
「で、断ってきたと」
「中々に察しがいいな」
当たり前だ。いったい何年付き合ったいると思ってるんだ。
思いながらも口に出さない沙羅は初めて出会った時よりも数段柔らかい雰囲気を纏う様になった。
対して蓮も人を小馬鹿にした様な態度こそ変わってはいないが、他者に対して真摯に向き合える様になっていた。
時が経てば人は変わるものだと、嫌でも納得する他無い。
沙羅に至っては元々面倒見の良い性格が祟ってか、旧世代で言う"母の日"に新兵、または後輩から今の時代では貴重なものとなった花を貰う始末。
現場を目撃したソーマが腹を抱えて笑い出したらしいのだから相当面白い光景だったのだろう。
その場に居合わせられなかったのが残念だと蓮は思った。
朱月沙羅と夜神蓮が出会って五年。
思うのは良く皆無事に生き残れたと言う事だろうか。
珍しく感慨深くなってしまうのは先日成人を迎えたコウタとアリサの所為だろうか。
意外と酒の強いコウタには驚かされたものだ。
相変わらず、沙羅は過去を語ろうとはしない。
それでも良いと、現在(いま)が大事なんだと、彼女を見てきた彼等は言う。
慈愛を込めて、まるで家族を見る様な瞳で、穏やかにそう言った。
幸せかと聞かれたら、今の彼女なら迷う事無く是と答えるだろう。
それが何故かむず痒くて、ほんの少しだけ心が温かくなる。
きっと今なら、蓮も迷う事無く幸せだと言えるのだろう。
この環境に絆された感が否めないが、それも良いだろうと思えてしまうあたり彼自身変わっていた。
幸せなんだ、そう凄く、
「大将?」
「………」
涙が、出てしまいそうになる程。
「…今、幸せ?」
「……はい、とても」
笑う彼女は日溜りの様で、思わずつられて笑ったら、今度は少しだけ目を見開いて泣きそうな顔で笑った。
どうしたのかと聞けば、彼女は首を横に振って、やっぱり笑った。
「幸せなのに、何だか泣きそうになるんです」
でもその涙は不思議と痛くないんです。
悲しくて涙を流す時は胸が張り裂けそうに痛むのに、これは違うんです。
「幸せでも、泣けるんですね」
涙は心が動いた証だと言ったのは父だったか母だったか。
決して雫を零す事は無いが、彼女はやはり嬉しそうに、泣きそうな顔で笑んでいた。
「……大将は、幸せですか?」
「……うん、きっと」
幸せなんだろうね、俺は。
そう言えばまた笑う。
退屈だった日常が今では酷く愛おしかった。
リハビリ文
お久しぶりです
その内5年後、この設定でリンソマ書きたいです
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