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日々の妄想を書き綴る
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昔生きていた場所は悲惨で汚くて、人間の醜い本性が其処にはあった。
外部居住区とはまた別の小汚いスラムには親を亡くした子供や、社会から切り離された大人が細々と生活していた。
身を寄せて協力し合いながら生活する集団も居たが、殆どは奪い合いの日々を過ごしていた。
餓死や奪い合いの末殺された人間がゴロゴロと転がり、腐臭しかしない狭い路地に朱月沙羅は生きていた。
親が誰なのか、自分は何処から来たのか、何で此処に居るのか、自分の名前すら彼女には全く分からなかった。
唯気が付いたらこの路地に居た。
だから人の死体なんて当然見慣れていたし、鼻を突く様な腐臭は日常だった。
これが当たり前で日常だと何の疑いも無く彼女はそう思っていた。

ある日、飢えで死にそうになっていた沙羅を黒髪の青年が拾った。
腐臭が纏う小さな肢体をしっかりと抱きあげ、彼は自分の住む家へと彼女を連れて行った。
継ぎ接ぎだらけの家は地震が着たら直ぐに倒れてしまいそうな程頼りなかったが、その中で生きている人間は皆強く、暖かだった。
少女は彼等に名前を貰い、”朱月沙羅”としてこの世に生まれたのだ。

彼等との生活は、少女にとって酷く優しかった。
自分の日常を、常識を粉々に砕いてくれた彼等を彼女は慕い、また彼等も妹として少女を愛した。
配られる微量の配給を全員で分け合って暮らす生活は何の窮屈も無く、彼女の笑顔は絶える事は無かった。

だが皮肉な事にこの世には”絶対”というモノが殆ど存在しない。
だからこの優しく温かな生活が続くという保証は何処にも無かった。

少女が兄と慕う二人はゴッドイーターとなった。
新兵時代は頻繁に家に顔を出していたが階級が上がると同時に帰ってくる事がどんどん減っていった。
それでも彼等の稼いだ金で一家の暮らしは昔よりも遥かに裕福になった。
仕送りされるそれを見ては、二人共元気にやっている、と寂しさを誤魔化しながら沙羅は笑っていた。

報告は突然だった。
背中に狼のエンブレムを負った人間が彼等の家を訪ねて来たのだ。
彼女には何となくそれが訃報だという事に気が付いていた。
だから彼等の口からその事実を告げられても彼女は動揺はせずに、彼等が帰途に就いた後、少女は漸く姉にしがみ付きながら大声で泣いた。

それから暫くして、姉がアラガミ化したゴッドイーターに喰われた。
それを殺したゴッドイーターに頭を下げられたが、彼女は大丈夫だと告げると何も分からない弟妹を抱いて静かに泣いた。

彼女にとって最期の絶望は彼女自身がゴッドイーターになる一年前の事だった。
その日もいつもと同じように配給を受け取り家へと帰って来た彼女を待ち受けていたのは一面の紅。
横たわる小さな二つの肢体の前に立つひょろりとした体躯の男。
手には包丁がある事から恐らく殺したのはこの男だ、とやけに冷静な頭で沙羅は思った。
男が血走った眼で少女を見るが、彼女は何とも思わなかった。
いや、思えなかった。
兄二人を失い、姉を失って、最後に残った幼い二つの命さえ奪われた。
それも人間に。
分かっていた事だった。
人間はアラガミよりも貪欲で醜くて汚いモノだと、知っていた筈だった。
彼女は叫ぶわけでも喚くわけでも泣くわけでも無く、唯”笑った”。
喉が避けてしまいそうな程大声で。
これ以上無い程に。
笑って、わらって、ワラって、嗤った。
 
その後の事は覚えていなかった。
気が付いたら男は消え、辺りも夕焼けに包まれていた。
彼女の目の前にあるのは血に濡れた現実だけで、幻想に逃げる事の許さない絶望が其処には広がっていた。
まだ、アラガミに喰われていたのなら救われたのかもしれない。
人類が憎むべき存在に喰われていれば、きっと彼女の心は救われていた。
 
兄達は忌むべきアラガミに。
姉は希望である筈のゴッドイーターに。
弟妹は弱者である筈の人間に。
 
彼女の激情は何処に向けるべきなのだろうか。
心に渦巻く暗い感情を、誰に、何に向かって吐き出せばいいのだろう。
アラガミにゴッドイーターに人間に。
分からなくなった少女はどす黒い激情を封印した。
殺すには大き過ぎて、吐き出すにはその対象が無い醜い感情を。
押し込んで押し込んで、心の奥底に仕舞って、蓋をした。
 
これ以上何を思って何に期待して何を信じて生きればいいのか。
此処にあるのは果ての無い絶望と醜い人間と変わる事の無い世界だけなのに。
信じる事なんかもう出来ない。
希望なんて抱く事ももう出来ない。
だったら諦めてしまおう。
これ以上心が死なない為にも、自分自身を護る為にも。
全てを諦めて、自分の事すら諦めれば、きっともうこんな思いをする事は無くなる筈だから。

目から零れ落ちた涙の理由が、彼女にはもう分からなかった。






 
本当に、どうしてああも元気なのか、とマシンガントークを織り成すコウタとタツミを見て思う。
話の内容は全くと言っていい程理解できないが、その表情が笑んでいる事から楽しそうなのは良く分かった。受付でお茶をするヒバリとリッカもその様子を見て微笑んでいた。
ソファに座っている沙羅はお茶を飲み、報告書の最終チェックをしながら未だに暗い激情が燻っている胸元に触れる。
誰にも見せてはいけない、触れさせてはいけない感情だった。
ひた隠しに生き続ける事が、沙羅にとっては唯一の贖罪で罰なのだろう。
人を踏みこませない道を選んだ彼女はこれから先も独りで生きて、誰にも気付かれず独りで死ぬのだろう。
それが彼女に残された道であり、彼女が望んだ道だった。
今更救われたい等とは、到底思えなかった。

「少し休んだらどうです?」

目の前に腰掛けたのは赤いチェックの帽子を被ったアリサだった。
深い藍色の瞳には沙羅を信頼している色が伺える。
彼女からしたら沙羅は自分を掬い上げてくれた人物で、何より同じ隊の仲間なのだから信頼して当然なのだろう。
だが、沙羅からしてみればその信頼は酷く辛いものだった。

「一通り目を通したら休むよ」
「……あまり強くは言いたくないんですけど、最近ちゃんと寝てますか?顔色も良くありませんし……まぁ、貴方に限って食べてないって事はないと思いますが、偏食だけはしないようにして下さいね」

気遣う言葉が嬉しいのと同時に悲しかった。
自分にはどうしても人の善意が届かない。
だからアリサが本心で沙羅を心配していたとしても、労わりの言葉は沙羅の心には響かない。
彼女の心は相変わらず空っぽで、相変わらず死んでいた。
だけどどうしようもない。
どうしようとも思わない。
彼女は淡々と毎日を生きるしかなかった。
たとえそれが、どれ程相手にとって裏切りになっていようとも今更生き方を変えられる程、彼女は器用では無かった。

何処までも歪んでしまった少女にとって、それが”普通”だった。
誰も信じる事が出来なくなった少女は人間よりもアラガミよりも自分自身を嫌っていた。
絶望しかない彼女の世界にはもう誰も住む事は出来ない。

もしも、誰かが醜く燻る彼女の心の奥底に触れる事が出来るのなら、彼女は救われるだろうか。
もしも、誰かが人を信じる事の出来ない彼女を無条件に信じる事が出来るのなら、彼女は昔の様に笑えるだろうか。
もしも、誰かが彼女の孤独を理解する事が出来るのなら、彼女は昔の様に泣けるのだろうか。






崩壊した世界

(残ったモノは虚無だけだった)














沙羅の過去の大まかです
次からは蓮を出したい!!!
がむばる

 

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